)” の例文
しかし万葉の恋歌は、一々の歌の内容は単純であっても、それのまれた境位が必ずしも単純でなかったことを思わせるものがある。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
ことにどもらしい氣持きもちをうた自由じゆうみこんだひとで、そんなのになると、つい/\よいわるいをわすれて、同感どうかんせずにゐられません。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
こういうところをむのかいなと、ぼんやり思ってみたりして、この家も自分のものか借家なのか、いてみたこともなかったけれど
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それを読むとにわかに興が動いて、先日、平安神宮でみさしたまま想が纏まらないでしまったものを、暫く考えて次のように纏めてみた。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
日ごろ半蔵を感心させるほどの素直な歌をむ。彼が開いて見る本の中には京大坂の町人の手に成った古版物や新版物の類もある。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
大伴家持の山斎属目さんさいしょくもくの歌だから、庭前の景をそのままんでいる。「影さへ見えて」の句も既にあったし、家持苦心の句ではない。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
んだ事を思い出し、翌朝早く起きた時分に虎は居りませぬが月がよくえて居ります。その月を見てまたその答に一首詠みました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「花に住むうぐいす、水に住むかわずの声をきけば、生きとし生けるものいずれか歌をまざりける」とも述べおる如く、誠の声はく人を動かす。
婦人問題解決の急務 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
また“まづたのむしひの木もあり夏木立”とみ、余生をここに息づいたのみか、大坂で病んで死んだが、遺言によって、遺骸も
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
僕はあの令嬢の前へ出ると、何となく一種の感に打たれて、当分のうちは詩を作っても歌をんでも愉快に興が乗って出て来る。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こんな歌などを各自がんで、行く先をも帰る所をも忘れるほど若い人たちのおもしろがって遊ぶのに適した水の上であった。
源氏物語:24 胡蝶 (新字新仮名) / 紫式部(著)
コンナ和歌が私の唇からすべり出た。他人の歌を暗記していたのか、私が初めてんだのかわからない。それ程スラスラと私の頭から辷り出た。
冥土行進曲 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
この詩の中には“安民処処巧安排、告示輝煌総姓柴”と云って、柴長官の告示によって人民が安心した事もまれている。“拳匪紀略”には
戦争史大観 (新字新仮名) / 石原莞爾(著)
歌をみかけられて返しをせぬと、七生おしにでもなるやうに思つてゐたらしい当時の人のことで此の返しはあつたのだらう。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
興に乗じて歌をむつもりでしたろう。それが、どう間違ってか、白馬ヶ岳の焼野原と言ってしまったので、グッとあとが詰まったようです。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
千代能ちよのうというあまさんは江戸期のはじめ頃に京都にいた人だが、この人が悟りを開いたときにんだという有名な和歌がある。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
現に江戸の風俗詩川柳せんりうに、小便組をんだ洒落れた短詩が、數限りなくのこつてゐるのを見ても、その盛大さがわかります。
しかし、当人は存外のんきに歌でもんでいたのかも、それはわからない。顔の粉っぽいのは白粉おしろいのつけそこねであったかも、それはわからない。
軽井沢 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
わたくしは詩を作り歌をむ。彼は知人の采録さいろくするところとなって時々じじ世間に出るが、これは友人某に示すにすぎない。
なかじきり (新字新仮名) / 森鴎外(著)
夏目先生は、楠緒さんのおなくなりの時に、「あるほどの菊投げ入れよ棺の中」という手向たむけの句をおみになりました。
大塚楠緒子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
日本では専ら「うさぎ」また「のうさぎ」で通るが、古歌には露窃つゆぬすみてふ名でんだのもある由(『本草啓蒙』四七)。
太鼓橋を人の渡る処をもうと思うたが、やはり出来ぬ。それを用いて恋歌を詠んで見よかと思うたばかりで出来ぬ。
車上の春光 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
月夜烏が啼き、ほととぎすが啼く、という趣をんだのである。「跡や先」という言葉は、前後して啼くといったら、一番わかりいいかも知れない。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
入日いりひの落るを見て北條が歌を詠じたと云う……えゝ何とか云った……オヽ……「敵は打つ心まゝなる鴻の台夕日ながめしかつ浦の里」とんだと申すて」
じぶんの家へれて来て和歌をみあっておもいを述べ、それから観眤かんじを極めると云うほとんど追字訳ついじやくのような処もあって、原話げんわからすこしも発達していないが
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
うたむ人の方便とのみ思ひ居し戀に惱みしと言ふさへあるに、木のはしとのみ嘲りし世捨人よすてびとが現在我子の願ならんとは、左衞門如何いかでか驚かざるを得べき。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
そうして、人民からは離れさられ、学問からは遠ざかり、ただ、たんに和歌をむぐらいが、その仕事であつた。
やっと体裁を繕って、自分の生活や気持とは大変に離れた環境の中で風流らしい歌もんで、帰って来ると、自分の心を抑えることができないで憤慨する。
婦人の創造力 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
姫君は寂しい屋形のたいに、やはり昔と少しも変らず、琴を引いたり歌をんだり、単調な遊びを繰返してゐた。
六の宮の姫君 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
自分に、し、もう少し和歌のこころざしあつく、愚直の性分があつたら、あの流儀は自分がやりさうなことであつた。その「ただ言歌」の心要として蘆庵のんだ
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
ささめ、為朝ためとも博多はかた、鬼百合、姫百合は歌俳諧にもんで、誰も知ったる花。ほしなし、すけ、てんもく、たけしま、きひめ、という珍らしい名なるがあり。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこで叔父御が言わしゃるには、おれも長年烏帽子こそ折れ、腰折れすらもまれぬはなんぼう無念じゃ。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ゆえにこれを根拠こんきょとして、山上憶良やまのうえのおくらんだ万葉歌の秋の七種ななくさの中のアサガオは、桔梗ききょうだといわれている。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
歌でもめたら、ひとつ人麿ひとまろと腕っ比べをしてやるところだった。あはははは。そらもひとつお代わりだ
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
(間)私が比叡山ひえいざんで一生懸命修行しているころであった。慈鎮和尚じちんかしょう様の御名代ごみょうだいで宮中に参内さんだいして天皇の御前で和歌をませられた。その時の題が恋というのだよ。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
また高市皇子尊たけちのみこのみことの城上の殯宮ひんきゅうの時にめる柿本人麻呂かきのもとのひとまろの長歌(万葉集巻二)によって更に有名であろう。けだ壬申じんしんの乱は、わが国史において未曾有の異変だった。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
風鈴ふうりん短冊たんざくが先日の風に飛ばされたので、先帝の「星のとぶ影のみ見えて夏の夜も更け行く空はさびしかりけり」の歌を書いて下げた。西行さいぎょうでもみそうな歌だ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「君なくてあしかりける……」とまた繰返しみ、そうであったか、そうであらざらんにはわが心もかく騒ぐまじきにと、生絹は涙せきとめることができなかった。
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
その時の題は「落花随風らっかずいふう」といって、風にしたがって散る花の風情をむのであったが、だんだん読みあげてゆくうちに、ずばぬけて上手な一首が出て来た。それは
蒲生鶴千代 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「なぞと申して、菊めの名前が出ると、俄かにそわそわと足が早うなるのう。——一句浮んだ。茶の宵やほのかにゆらぐ恋心、京弥これをむ、とはどんなものぞよ」
「わがいだく思想はすべて金なきに因するごとし秋の風吹く」と、薄命詩人石川啄木たくぼくんでいます。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
雨情がこのうたをんだのは、大分むかしのことであろう。いまはよしきりの鳴声もきかれない。
犬の生活 (新字新仮名) / 小山清(著)
まず四人同道で伊勢いせ参宮さんぐうのために京都を出る時に、道すがら三人の者がそれぞれ詩や歌をむと、道無斎がそれを聞いて、滔々とうとうとして次のごとき説法を始めるのである。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
花鳥をとおし、花鳥をり、花鳥を描いて人の心をむ。人間を諷詠するもの、これが俳句である。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
みました。それをお公卿くげ様へ送りました。一度逢って二度とは来ない、薄情な薄情なお公卿様へ
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
まちにいでてなにをし食はばたひらけき心はわれにかへり来むかも」などとんだ気もちであろうか。
茂吉の一面 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
この精神こそは奈良朝ならちょうで有名な光明皇后こうみょうこうごうのみこころを動かしたものであって、「折りつればたぶさにけがるたてながら三世みよの仏に花たてまつる(三二)。」とおみになった。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
毎日まいにちおふろのをたいてばかりおりました下司女げすおんなに、どうしてうたなんぞがめましょう。」
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
まれた吉野のことですから、都の人も吉野の美景を見ないのを残念だと申しておりますが、私は幼いときから、人の大勢いる所へ出たり、長い道中を歩いたりしますと
それにすぐ古くさい歌やなんか思い出すしまた歌などむのろのろしたようなむかしの人を考えるからどうもいやだ。そんなことがなかったらぼくはもっと好きだったかも知れない。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)