若人わこうど)” の例文
六年生の兵太郎君へいたろうくんがせんとうで、ほかの者は、そのあとに二列にならび、げんきよく、「世紀せいき若人わこうど」の歌をうたってゆきました。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
私からはっきりと申しますれば、あの男こそ世にも愚かな若人わこうどなのでございます。けれども決して大悪人ではございませんでした。
殺された天一坊 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
さるに、そのわれらへ、御相伝ごそうでんの兵学を講じられたり、若人わこうどよあだに生命いのちを過ごすななどと、常々鼓舞してやまぬお師のお心の底を
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
生れ落ちてから十六年の後、はじめて世間と云うものを見せられた若人わこうどの、無限の歓喜と讃嘆とが、其処に声高く叫ばれて居た。
二人の稚児 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
人のいのちを花になぞらえて、散ることだけが若人わこうど究極きゅうきょく目的もくてきであり、つきぬ名誉であると教えられ、信じさせられていた子どもたちである。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
「そうよ、お前」長造は、ふりかえって店の前を眺めたが、警戒場所に急ぐらしい若人わこうどの姿を、幾人も認めた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
料理屋の料理、家庭料理、富者ふしゃの好む料理、貧者の料理、サラリーマン級の料理、都会料理、田舎いなか料理、老人好み、若人わこうど好み、少年少女向き、病人向き……。
味覚馬鹿 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
今日こんにち若人わこうどたちの眼から見たらば、灰か、炭のように、黒っぽけて見えもするであろうが、みんな火のように燃えていて、みな、それぞれ、その一人々々が、苦闘して、今日の
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
男にも、女にも、老人にも、若人わこうどにも、貴族にも、賎民にも、あらゆる者に化ける。
百面相役者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
このり開きたる引き窓より光を取れる室にて、定まりたるわざなき若人わこうど、多くもあらぬ金を人にしておのれは遊び暮らす老人、取引所の業のひまをぬすみて足を休むる商人あきうどなどとひじを並べ
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
警察によって刺激された若人わこうどどもは、立派な『無産階級軍の前衛隊』となり、なお加えらるる試煉によって、牢獄ろうごくも、絞首台も、恐るるに足らずという、固い信念の中に、生きるようになったんだ。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
親戚しんせきの、幼馴染おさななじみ一人ひとり若人わこうど……世間せけんによくあることでございますが、敦子あつこさまははやくからみぎ若人わこうどおもおもわれるなかになり、すえ夫婦めおとと、内々ないない二人ふたりあいだかた約束やくそくができていたのでございました。
彼は「いざ、乙女おとめよ、若人わこうどよ。(註六五)」と口笛を吹いていた。
春光台はらわたちし若人わこうど
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
さっきから釣糸をそこの瀬へ垂れていた百姓の若人わこうどみたいな男は陽にけた顔を、くるりと向けて、崖の上を振仰ぎながら
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
然し、恋する若人わこうどの気もちを知る或る人々は、この哀れな一青年の心情に、或いは多少の同情を与えてくれたかも知れないと、私は信じて居ります。
彼が殺したか (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
気宇の広い若人わこうどたちには住みにくい世界よ、熟議熟議に日が暮れて、武子さんの心はぐんぐんと成長してゆく、兄法主には、大きく世界の情勢を見ることを啓発され、うちにはロシアとの戦争に
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
もちろん時代風紀は水戸にもい入っていたが、からくもその濁風だくふうにみじん染まない若人わこうどのみは、老公をめぐって、無上の絢爛けんらんぜいたく、享楽
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
若人わこうどならばすべてが新時代を理解する若人であろうとはいえない。若い生命をもちながら、時の真髄しんずいをつかめない若者もある。長政などは、それだった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
などと、よく城内の若人わこうどたちが寄るとさわると、衣の袖をたぐしあげて傲語ごうごするような大言壮語はしたことがなかった。実際にまた考えてもいなかった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
阿部麻鳥あべのあさとり(もと朝廷の伶人れいじん)崇徳天皇に愛され、天皇退位の後も、御所の柳ノ水の水守を勤め、讃岐さぬきの配所までお慕いして、今は都の陋屋ろうおくに住んでいる若人わこうど
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
然し、乱れ世の若人わこうどはかなさよ。いくさと恋は両立しない。しかも、弓矢の捨てられない武人であることを、君もゆるせ。——ただここに、二人の希望をつなぐ一途がある。
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まだ、地下人ちげびといやしめられていた武者所むしゃどころ若人わこうどたちで——安芸守平ノ清盛など、その一人でした。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひょうとしてここに旅へ吹かれ出た史進の姿は、いかにも宋朝時代の若人わこうど好みないきづくりだった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
美男の魅力は美女の蠱惑こわくにもまさるものか、あの夜川長の裏庭で、月下に渦まいた一つの争波そうはから、虚無僧姿の若人わこうどへ、つるぎ以外に、お綱お米という二つの女の魂までからみついてこようとは
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あたりの樹々は、露がこおって、白珠しらたまをつらねたように氷が咲いていた。大地は、針の山に似ている冱寒ごかんの深夜だった。けれど、四人の若人わこうどの息は、血は、さながら火と火のように熱かった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
後ろ姿——どっちも美しい若人わこうどである。「罪なことをしたなア」
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)