“聴(き)” の例文
旧字:聽
実際また王生は、仲の好(い)い友人の趙生(ちょうせい)と一しょに、自由な生活を送っていた。戯(ぎ)を聴(き)きに行く事もある。博(はく)を打って暮らす事もある。
奇遇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「いえ、まだ私(わたし)は、だれにもあいませんでした。今度(こんど)あったら、みんなに聴(き)かしてやろうと思(おも)っています。」と、ぶとが答(こた)えました。
太陽とかわず (新字新仮名) / 小川未明(著)
ただいずこともなく誇れる鷹(たか)の俤(おもかげ)、眉宇(びう)の間に動き、一搏(いっぱく)して南の空遠く飛ばんとするかれが離別の詞を人々は耳そばだてて聴(き)けど
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
クリストフはある晩彼女の演奏を聴(き)いて、その演奏振りに驚かされた。音楽会が終わって握手をしに行った。彼女はそれを感謝した。
十三絃(じゅうさんげん)を南部の菖蒲形(しょうぶがた)に張って、象牙(ぞうげ)に置いた蒔絵(まきえ)の舌(した)を気高(けだか)しと思う数奇(すき)も有(も)たぬ。宗近君はただ漫然と聴(き)いているばかりである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
妻の七夕の止めるのも聴(き)かず、そこに生(な)っている瓜を食べようと思って、二つに竪(たて)に瓜を割ったら、それがたちまち天の川になった。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
どうぞ是非(ぜひ)一つ聴(き)いて頂(いただ)きたい、と云(い)うのは、実(じつ)はそう云(い)う訳(わけ)であるから、寧(むしろ)君(きみ)は病院(びょういん)に入(はい)られた方(ほう)が得策(とくさく)であろうと考(かんが)えたのです。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
妻(さい)の出た跡で、更に酒を呼んだ宗右衛門は、気味の悪い笑顔(えがお)をして五百を迎える。五百は徐(しずか)に詫言(わびごと)を言う。主人はなかなか聴(き)かない。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そのうち、正ちゃんがどこからか帰って来て、僕のそばへ坐って、今聴(き)いて来た世間のうわさ話をし出す。お君さんは茶を出して来る。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
基督の信は、常に衷(うち)に神を見、神の声を聴(き)けるより来たり、ポーロの信は、其のダマスコ途上驚絶の天光に接したるより湧(わ)き出でたり。
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
お天気のこと、恋愛のこと、文学のこと、彼は女の喋る言葉に聴(き)き惚(ほ)れることもあったが、何かがパッタリ滑り堕ちるような気もした。
火の唇 (新字新仮名) / 原民喜(著)
何(ど)うしても分(わか)らんかつた。うるさくいつたらしまひにやお前(まへ)には分(わか)らない、とさうおいひであつた、また推返(おしかへ)して聴(き)いたら、やつぱり
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そして、ほかのが、どれもこれも、よく言うことを聴(き)くといったらない。この親鳥にしてこの子ありである。一つとして動かない。
「座敷へ上がり込んじゃ興が醒(さ)める。弾(ひ)く方(ほう)も、聴(き)く方も、外でこそ流しの味、金襖(きんぶすま)では野暮(やぼ)になる。そうおっしゃっておくんなさい」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このたびの我が旅故郷の閑古鳥聴(き)かんがためとも人に云ひぬ。塵ばみたる都の若葉忙(せは)しさ限りもなき陋巷(ろうかう)の住居に倦み果てゝとも云ひぬ。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
みなさんが私のこういう話を聴(き)いてくださるのは、仏教に対してかなり久しい間の関心をもっておられる熱心なかたであると思いますし
生活と一枚の宗教 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
そのほかにも母には一つ一つ思出がありそうでしたが、私はたいていのところで、聴(き)くのをやめて外へ遊びに出て了うのでした。
虫干し (新字新仮名) / 鷹野つぎ(著)
「こんどのおかあさんもいいおかあさんだから、亡(な)くなったおかあさんと同(おな)じように、だいじにして、いうことを聴(き)くのだよ。」
松山鏡 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
何の見る物もなく風情(ふぜい)もないので、夫人が怪(あや)しんで質問したところ、ヘルンは耳を指して、『お聴(き)きなさい。なんぼ楽しいの歌でしょう』
君(きみ)、ちょっと聴(き)き給(たま)え。君(きみ)はずいぶん見(み)っともないね。だから僕達(ぼくたち)は君(きみ)が気(き)に入(い)っちまったよ。君(きみ)も僕達(ぼくたち)と一緒(いっしょ)に渡(わた)り鳥(どり)にならないかい。
春琴は常に我が居間の床脇(とこわき)の窓の所にこの箱を据(す)えて聴(き)き入り天鼓の美しい声が囀(さえず)る時は機嫌(きげん)がよかった故に奉公人共は精々水を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
おめえがここでたった一言(ひとこと)。おなつかしゅうござんす、とかなんとかいってくれさえすりァ、おいらの頼(たの)みァ聴(き)いてもらえようッてんだ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
身にしみて聴(き)ける浪子は、答うるまでもなくただ涙の顔を上げつ。幾が新たにくめる茶をすすりて、老婦人は再び談緒(だんちょ)をつぎぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「もっと、とっぷりと浸(つ)かるような飲(のみ)ものはない?」「しとしとと、こう手で触(ふ)れるような音曲(おんぎょく)が聴(き)き度(た)いなあ。」母は遂々(とうとう)、匙(さじ)を投げた。
桃のある風景 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
気がつくと、私の傍で妻もその小鳥の啼くのを一しょに聴(き)いていたと見え、それがそのまま啼き止んでしまうと、私の方へ顔を上げながら
朴の咲く頃 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
豚はこれをすっかり聴(き)いた。そして又大へんいやになった。楊子のときと同じだ。折角のその阿麻仁も、どうもうまく咽喉(のど)を通らなかった。
フランドン農学校の豚 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
何という懐かしい、久しぶりに聴(き)く女の声であろう。振り顧(かえ)って考えると、それは去年の五月から八、九カ月の間も聴かなかった声である。
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
父はベンチに腰掛(こしか)けて、鞭(むち)の先で砂に何やら書きながら、半ばは注意ぶかく、半ばは放心のていで、わたしの話を聴(き)いていた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
何と云われても仕方はないわ、ああッ火も小さくなって寒うなった、もうもう寝てでもしまおうよ、と聴(き)けば一々道理の述懐。
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
庸三も彼女も固くなってしまったところで、葉子を照れさせないために彼は蓄音機を聴(き)きに、裏にある子供の家へ案内した。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
丁度夏の午(ひる)前の事で、女客は顔の汗を拭き/\感心したやうに幾度(いくたび)か首を掉(ふ)つて聴(き)き惚(と)れてゐたが、暫くすると発明家の顔を振り向いて訊いた。
イエス天を仰ぎて言いけるは、父よ、すでにわれに聴(き)けり、われこれをなんじに謝す。われなんじが常に聴くことを知る。
一、幼少の折、学校で学問の大事なことを聴(き)いて、よし学者にならなくとも、勉学読書は暇(いとま)あるごとに怠(おこた)るまいと思った。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
然れども幸か不幸か、余は今なほ畳の上に両脚(りょうきゃく)を折曲げ乏しき火鉢(ひばち)の炭火(すみび)によりて寒(かん)を凌(しの)ぎ、簾(すだれ)を動かす朝(あした)の風、廂(ひさし)を打つ夜半(やはん)の雨を聴(き)く人たり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
預けてある剥(は)げっちょろけたお椀に、飯や汁を一緒に盛って食いながら、私の読む講談に聴(き)き惚(ほ)れるのが習慣であった。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
神(かみ)さま、何(ど)うぞ私(わたくし)の一生(しょう)の願(ねが)いをお聴(き)き届(とど)け下(くだ)さいませ……。私(わたくし)の女房奴(にょうぼうめ)が入水(にゅうすい)すると申(もう)して、家出(いえで)をしたきり皆目(かいもく)行方(ゆくえ)が判(わか)らないのでございます。
あたしは暇にあかしてそうして見たかった。彼女の日常起居、生れてからの一切を聴(き)いて、それを忠実な自叙伝ふうな書き方にしてゆきたいと願った。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「もういっさい何も聞かせないようにしてくれ。あれに関した話を聴(き)けばまた悲しみが湧(わ)くばかりだから、かえってあれの行く道を妨げることになる」
源氏物語:36 柏木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ただ、彼は、彼にとって全く無意味だとしか思われない言葉を、いつまでも聴(き)いているのがばかばかしかった。
次郎物語:03 第三部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
これは充分聴(き)いて頂きたい……私は今度、主任の役をお受けしたのでありますが、馬上の楠公というので、差し当って馬の製作に取り掛からねばなりません。
この夜ヨハンの案内してくれた場所は料亭で、食事をしてから後に、最少は五歳、最年長は二十歳の二十数人からなるジプシイ楽団のヴァイオリンを聴(き)いた。
罌粟の中 (新字新仮名) / 横光利一(著)
人々はかれの語るを聴(き)いていてもすこぶるまじめでない。彼らはかれを信じたらしく見えない。かれはその背後(うしろ)で彼らがこそこそ話をしているらしく感じた
糸くず (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
差当(さしあた)りこの病を医すべき適切なる薬餌(やくじ)を得、なお引続き滞岳(たいがく)して加養せんことを懇請(こんせい)したれども、聴(き)かれざりしかば、再挙の保証として大に冀望(きぼう)する所あり
この一言を弟子たちの口から聴(き)かんがために、これまで親しく薫陶し給うたのでありました。イエスは決して御自分のことを弟子たちに吹き込み給わなかった。
涼しい、生き返るような風が一としきり長峰の方から吹き颪(おろ)して、汗ばんだ顔を撫でるかと思うと、どこからともなく蜩(ひぐらし)の声が金鈴の雨を聴(き)くように聞えて来る。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
左様(さやう)であらう、ソラ此器(これ)で脈搏(みやくはく)を聴(き)くんだ、何(ど)うだグウ/\鳴(な)るだらう。登「エヘヽヽヽくすぐつたうござりますな、左様(さやう)横(よこ)ツ腹(ぱら)へ器械(きかい)をお当(あて)あそばしましては。 ...
華族のお医者 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
僕は毎晩のように鉱石の上を針でさぐりながら、銚子局の出す報時信号(タイム・シグナル)のリズムに聴(き)き惚(ほ)れたものです。
壊れたバリコン (新字新仮名) / 海野十三(著)
もう寝たふりをして置こうと、夜着をかぶり、聴(き)きたくもない話なので、耳を塞いでいると、そのうち、また眠(ねむ)ってしまったようです。あの頃は、よく眠りました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
狐が軍人に化けて火薬庫の衛兵を脅かそうとしたというのである。赤羽(あかばね)や宇治の火薬庫事件が頭に残っている際であるから、私は一種の興味を以てその話を聴(き)いた。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
すこぶる才走った女で、政治向(むき)の事にまで容喙(ようかい)するが、霊公はこの夫人の言葉なら頷(うなず)かぬことはない。霊公に聴(き)かれようとする者はまず南子に取入るのが例であった。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)