美味おい)” の例文
それをよく洗って一旦いったん美味おいしく下煮をしてそのつゆへ醤油と味淋と水とを加えてお釜の底へ煮た松茸を入れて御飯をその汁で炊きます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
少しおつまみなさいませんか、精進は心のもので、かたちにとらわれるばかりでも供養にはならないものです、ちょっと美味おいしいですよ
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
真に美味おいしい料理はどうも付焼刃つけやきばでは出来ません。隣りの奥さんがやられるからちょっとやってみようか、ではだめであります。
日本料理の基礎観念 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
どことなくホロ苦くてトテモ美味おいしいんですって……だけど一度に沢山飲ませると、すぐに眼や鼻から血を噴き出しながらブッたおれて
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ああどんなにしても私は食わなければならない。街中が美味おいしそうな食物で埋っているではないか! 明日は雨かも知れない。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
親切な彼は、火のいた新しいやつを、あたしの唇の間にはさんでくれた。吸っては、吸う。美味おいしい。ほんとに、美味しい。
俘囚 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ポンス酒の泡立っている大盃などが各自の美味おいしそうな湯気を部屋中に漲らして、一種の玉座を形造るように、床の上に積み上げられていた。
時にはコーン・フレックスといって玉蜀黍とうきびの沢山入ったパン菓子の暖め立てのものを食べます。なかなか美味おいしいものです。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
午後五時が過るとすぐ、私たちは、珈琲コーヒを小さい茶碗に一杯と、黒パン半切れの食事をした。私は、パンをむさぼり食ひ、珈琲コーヒ美味おいしく飮んだ。
「そう穿じくらないで、ついて行くのならさあ行こう! その代り私はあとで美味おいしいものをあなたにご馳走してあげる」
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
何でもビフテキ専門の有名な美味おいしい料理屋のあると云ふ事を聞いて居たが案内して貰ふ人が無いので行かずに仕舞しまつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
店に居る力三もその又下の跛足びつこな哲も呼び入れて、何処にしまつてあつたのか美味おいしい煎餅の馳走をしてくれたりした。
お末の死 (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
いけない。それではいけない。悪くすぐりでなく、品好く、本筋であるうえに、もうひとつふるいつきたいほどその味が美味おいしいのでなければ……。
初看板 (新字新仮名) / 正岡容(著)
「……あなた、何か美味おいしい物でも喰べないこと。……ねえ。仰っしゃって下さいよ。わたし、つくづく悪かったわ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
固型寿司ずしや、水玉のように、ごむ袋の中に入った羊羹ようかんは、とても美味おいしかったので、舌鼓を打つと、将校の一人は
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
あま美味おいしくはございませんが、東京見物とうきやうけんぶつ他県たけん方々かた/″\が、故郷くに土産みやげつてつたものと見えまする。
僕が美味おいしい美味おいしいと、そのお魚フライを食べてゐると、やがてツカツカと、白い大きいヹーレをかぶり、青い洋服に薄い焦茶のストッキングをはいた
夜汽車の食堂 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
「や、これはひどいけむりだね……君、君の死んだ後で、君の肉体を煙草にして喫んだら、さぞ美味おいしかろう!」
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
日出雄少年ひでをせうねんこのいぬめに、晩餐ばんさん美味おいしい「ビフステーキ」を、其儘そのまゝまどからげてやつてしまつた。
遲い夜食は、前日捕れたといふ牝鹿の汁、てうまの燒肉で美味おいしく味ひ、午前零時十五分に就寢。
黒岩山を探る (旧字旧仮名) / 沼井鉄太郎(著)
「あ、美味おいしい、も少し頂戴。先刻のクロロフィルの入った水よりか、よっぽど、美味しい。」
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
簡単な、いもの煮たのさえ美味おいしがって、友達と一緒に妻と一緒にたべることを愉快がる重吉。
風知草 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
第二は植物性食品はどう考えても動物性食品より美味おいしくない。これは何としても否定することができない。元来食事はただ営養をとる為のものでなく又一種の享楽きょうらくである。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
これが最後の大チャンの手料理だと思うと美味おいしかった。わざと冷めたのを食べたのだが、番茶を飲むと汗が全身に吹き出してきた。暑い日だった。ひとつも風がなかった。
軍国歌謡集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
どこからともなく肉の焼ける美味おいしそうなにおいがして来る——フト顔をあげると、それは宿屋の外壁で、窓の中には山のような御馳走ごちそうと、温かい火と、楽しい歓談とがあった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
時間をきめて洋杯コップになみなみといだのへレモンと砂糖を添えて持ってくるが、身体からだが要求するのだろう、さして美味おいしくもないのに、咽喉のどがひりひりして飲まずにはいられない。
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
でも人參だの、蕪だの、食用薊なんてものは——ちつとも美味おいしいものぢやないわ。
狂人日記 (旧字旧仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
その蕨は実に美味おいしかったろうが、我輩の伯夷叔斉に望みたいことは、蕨が美味しかったなら、何故その蕨を八百屋へでも持って来て、皆の人にも食わせるようにしてくれなかったか
教育の目的 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
Fはナフキンで、ぞんざいに胡瓜を拭ふとその儘、白い歯をむき出して美味おいしさうに食べた。Fは、手持無沙汰になると丁度彼が煙草でも喫ふやうに、少くとも毎日十本の胡瓜は食べただらう。
或る五月の朝の話 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
もっとも僻村なのですから格別に美味おいしいものとか、贅沢なものとては一つもありませんが、普通一と通りの魚類は売りに来ますし、ここの海でとれとれの新鮮なものも気安く得られますので
そして暖かそうな白い飯に琥珀こはくのような光りのある黄汁をかけたものが、私の前に運ばれた。昨夜軍艦の中では缶詰の牛肉を食った。その牛肉は素敵に美味おいしいものであった。それにパンも食った。
丸の内 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「ボクが、じぶんでつくれるような、やさしくて、美味おいしいもの」
キャラコさん:08 月光曲 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
『実はあまり、秋刀魚さんが美味おいしさうなものだからですよ。』
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
「伊勢海老、鮪、鴨、蓮根、葱など美味おいしゅうござりまする」
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
美味おいしそうね、そのサンドウィッチ食べてもいいか知ら」
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
こうした田楽ならば香気が高くてまことに美味おいしい。
香気の尊さ (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
そしてそれをどんなに美味おいしいと思ったかを。
ブリスケを買う時は脂身あぶらみの附いている処でないと美味おいしくありません。それを二斤も買ってく強い塩水へ一晩漬けておきます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
……但し……そんな著述の中でも一番美味おいしいロースのクラシタどころだけは、この遺言書の中に留めておいて、適当の時代に
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そのたいの刺身は、自分が今までに味わったことのある明石あかしだいよりは、はるかに——とも言えるほど美味おいしいたいであった。
明石鯛に優る朝鮮の鯛 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
美味おいしいという気持はおこらない、そしてその一つ一つが松代の家のことに思い比べられ、しめつけられるように胸が痛んだ。
日本婦道記:糸車 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
私は非常に美味おいしかつた。食物もよかつた——これまでは、熱つぽいくさみの爲めに飮み込んでも胸につかへてゐたのだけれど。それも攝れて了つた。
家政婦のお菊さんが、台所で美味おいしそうな五目寿司をこしらえているのを見てとても嬉しくなった。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
父がここの肉を美味おいしがって百合子に食べさせてやりたい、いつか行こう、ね、ぜひ行こうと云っていたっきり、私はまだ一遍も行かなかったので、特にそこにきめたわけ。
葛岡は、胸に溜まっていた誰にも話せない鬱積を漸く吐き出す緒口いとぐちがついて来たので、とても元気が出たらしく、出た最初の皿をいかにも美味おいしそうに食べながら話し続けます。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ma chèreシェール(いとしいかた)、あたし、あの大きなしやぶりからしの骨なんか、ちつとも美味おいしいなんて思へないのに、うちのポルカンなんぞはいつもお臺所でガリガリ噛つてるの。
狂人日記 (旧字旧仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
いたのだけ喰べてみなよ。ね……喰べてみれば、きっと、美味おいしいよ」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二三度誘ったが、こりゃ駄目だと思った。そのままで賞味しょうみしてしまう手段はあったが、それでは充分美味おいしくいただけない。そう悟ったので、僕は一夜脳髄をしぼって、最も科学的な方法を案出した。
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
空っぽの茶碗を唇へあて、さも美味おいしそうに一吸いしたが
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「いいのかい。大へん結構だ。たべ物は美味おいしいかい。」
フランドン農学校の豚 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)