美味うま)” の例文
十月になると山鳥だのつぐみだのがうんとこさ獲れるんだよ、そのまた美味うまいったら、……三度三度、あたしゃ幾日食べても飽きないね。
契りきぬ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
昨日きのふ美味うま最中もなかが出来たが今日けふの茶の時間には温かい饅頭まんぢうが作られた。晩餐には事務長から一同浴衣掛ゆかたがけよろしいと云ふ許しが出る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
兄ちゃんさ美味うまいもの喰わせるつもりで、美味そうな青い草でもあったら、取って来て喰わせたり、大切にしなくちゃなんねえぞ。
(新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
渠は「敷島」を美味うまさうに吹かしながら、呼吸を深くして腹を凹ましたり、出したり、今日位腹を減らした事がないなどと考へて居た。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
実際ピローグそのものも美味うまかったが、殊に老婆を相手に、すったもんだの一芝居うった挙句なので、一入ひとしお美味しく思われたのである。
「待て待て。貴様でさえ可哀そうだと思ってるものを、追ッ払わせて、それでわが輩の酒が美味うまくなるもんか。連れてこいっ、ここへ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すべて学者といふものは、自分の専門の談話はなしをしなければ、どんな料理を食べても、それを美味うまいと思ふ事の出来ないものなのだ。
あなたは、かげではひそかに美味うまいものを食っていたンでしょう? アンナ・カレニナ、復活、ああどうにもやりきれぬおおきさ……。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
いい着物を着て、美味うまい物を食べて、立派な家に住みいと思わぬ事は無いが、ただそれが出来ぬから、こんな処で甘んじて居る。
「何月頃はどこそこの川のがよい」「何月頃はどこそこの海だ」というように、季節や場所によって、その美味うまさが説明される。
鰻の話 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
煮肴や何かも藤六と同じように朝早く自分で仕入れて来て、自分で料理するのであったが、それが仲々器用で美味うまいという評判であった。
骸骨の黒穂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
羊三も幼年の頃から食べなれた其の鳥が、どこの国から貰つたものよりも美味うまいことを知つてゐた。勿論それは其の食物に因るのであつた。
籠の小鳥 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
それに火をつけて吸いはじめたが、それは筆紙ひっしつくされぬほど美味うまかった。凍りついていた元気がにわかにけて全身をまわりだした感じだ。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
現に君達が米国で楽しみつつある美味うまい料理の一皿を手に入れることが出来れば、古靴はおろか、新しい靴も皆やって了ってもいいと思う。
最後にダニエルは、紙で包んだ美味うまいものを口の中へ投げ込む。その紙包みは、納屋の抜け穴を猫が通るようにはいって行く。
駅前へ集合する時間の少し前、彼は、一番親しかった友達と二人きりで裏通りのレストランにはいって行った。全く美味うまいビフテキであった。
プウルの傍で (新字新仮名) / 中島敦(著)
あんずるに、團子だんご附燒つけやきもつ美味うまいとしてある。鹽煎餅しほせんべい以來このかた江戸兒えどつこあまあまいのをかぬ。が、なにかくさう、わたし團子だんごあんはう得意とくいとする。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その代り困る事には味が分ると同時にアラが知れて今まで美味うまいと思った西洋料理屋の品物がこの頃は不味まずくなってどうしても食べられません。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
味は淡白たんぱくであって美味うまくないから、だれも食料として歓迎かんげいしない。しかれども方法をもってすれば、砂糖さとうが製せられるから捨てたものではない。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
なにしろ、三日目に食い物にありついたんだからねえ。まったく、あの時の羊の肉は美味うまかったなあ。今でも忘れないよ。
私は美味うまい食物によって彼らを釣ろうとしたのであった。彼らは半分なかば人間ではあったが煮焚にたきの術を知らなかった。それを私は利用したのである。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「いい牛蒡ですよ。なかなか美味うまい。ただ醤油が少しはいり過ぎたので、少し塩辛いだけだ」と平気な顔をしている。
面白味 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
やがて、ぷんぷん美味うまそうな匂いのする肉菜汁スープと、肉の皿がはこばれた。盲は無言でゆっくりゆっくりそれを平らげた。
幻想 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
なまじ、あんな美味うまいものを知らなきゃあ、こんな苦労はあるまいものをと、戦時中、幾たび嘆いたか分らない。
想い出 (新字新仮名) / 古川緑波(著)
法廷ほふてい眞中まんなかには一きやく洋卓テーブルがあつた、其上そのうへには栗饅頭くりまんぢうおほきなさらつてゐました、るからに美味うまさうなので
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
ア・ラ・ヴォートル! といいながらひと息に飲みほして、だれもみな、あまり美味うまくもないような顔をした。
うしろまでまわるような白い大前かけをかけ、余りきれいでないナプキンを腕にかけた給仕が、皆の前へきつい脂のういた美味うまそうなボルシチをくばった。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
美味うまそうだ、ちょっとめてみようと思って、段々肉の方へ向って来る、即ちたのしみを望んでクルリと廻って来るのであるから、これほど結構なことはない。
教育の目的 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
それや、他人事ながら羨しいが、兄貴は職工係りで苦い汁ばかりを吸ってるし、弟は美味うまい汁ばかり吸ってるなんて、どっかの教科書にあったじゃないか。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
それから朝日島あさひじま漂着へうちやくして、椰子やし果實美味うまかつたこと猛狒ゴリラ襲撃しふげき一件いつけん櫻木海軍大佐さくらぎかいぐんたいさとの奇遇きぐうてつひゞき屏風岩べうぶいわ奇異きゐ猛犬稻妻まうけんいなづまにもまれなるいぬなること
気晴しッて、それアまた何のことだい? 芝居かい、夜会かい。それとも、巴里へ行って美味うまいものを
初雪 (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
何しろ米の出來るくににゐる田舎者ゐなかものが、こめの出來ない東京へ來て美味うまめしあり付かうとするんだからたまらん………だから東京には塵芥ごみが多い。要するに東京は人間の掃溜はきだめよ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
浮世の渡りぐるしき事など思ひめぐらせば思ひ廻すほど嬉しからず、時刻になりて食ふ飯の味が今更かはれるではなけれど、箸持つ手さへ躊躇たゆたひ勝にて舌が美味うまうは受けとらぬに
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
義仲への食事も全く同じものである。義仲ははしをとるとむしゃむしゃ美味うまそうに食い始める。中納言は出された田舎茶椀のきたならしさに辟易へきえきして、とても食う気にはならぬ。
さも渇してゐたかの如く、ちやうどこうしが親牛の乳をむさぼる時のやうな亂暴な恰好をしてごく/\と咽喉を鳴らして美味うまさうに飮むのだつた。見てゐた彼はねたましさに見震ひした。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
持参の瓢酒ひょうしゅで即席料理、魚が新鮮だから、非常に美味うまい。殊に車鰕の刺身と来たら無類。
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
磯は黙って煙草をふかしていたが、煙管きせるをポンと強くはたいて、ぜんを引寄せ手盛てもりで飯を食い初めた。ただ白湯さゆぶっかけてザクザク流し込むのだが、それが如何いかにも美味うまそうであった。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「矢代君やり給え。余り美味うまくはないけれど、長岡特製の粽だと云って貰ったのだ」
浜菊 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
魚の鰭や尾の附根の美味うまいのは、そこの筋肉が激しく使われながら、一向浪や潮に蝕まれず、常にこれに応ずる筋肉の組織を増備ましそなえして行って、いつも生々活溌の気を貯えているので
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
うそもいつわりもなく、世の中にこんな美味うまいものが、またとあるだろうかと思った。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
そして、彼は家では少しつましくしてゐたので、非常に美味うまさうにして食べた‥‥
食べにかかると握り飯も御馳走ごちそうもすばらしく美味うまいので、女中のことなどそっちのけにしてむしゃむしゃ頬張ほおばった。女中はじっとそれを見ていたが、もうこらえられなくなったと見えて
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
魚はタコマで折々海へ釣りに行ったり、また大西洋岸のものも口にした事がありますが皆大味おおあじで、日本近海の肴のような美味うまいものはありません。川魚は一度も口にした事がありませんでした。
亜米利加の思出 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ポークソテーが店の自慢になつてゐたが、ほかの料理もみな美味うまく、ことに野菜は全部酢漬すづけで、セロリーはいつもただで食べさせてくれ、なほ、毎月新譜のレコードを購入して聴かせてゐた。
木の都 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
亡き友が美味うましと云ひし葉とうがらしうましと思ひ少しづつ
遺愛集:02 遺愛集 (新字新仮名) / 島秋人(著)
「安くて美味うまいものだね、ヴィタミンを含んでると云うよ」
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
熊のてのひらの肉がばかに美味うまいということ。熊のの相場。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「矢っ張り家のものは美味うまい。彼方あっちじゃ窮命きゅうめいしたよ」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「僕ンとこへ来い、美味うまいものを喰わせるぞ。」
だがそれは俺に取ってどんなに美味うまかったか
(新字新仮名) / 大江鉄麿(著)