秋日和あきびより)” の例文
父さんは海へ、母さんは山へ、秋日和あきびよりの麗わしい日に働きに出掛けて、後には今年八歳になる女の子が留守居をしていました。
嵐の夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
元弘二年八月三日、この日はよく晴れた秋日和あきびよりで、松林では鳩が啼き、天王寺の塔のいらかには、陽が銀箔のようにあたっていた。
赤坂城の謀略 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
きょうはいい秋日和あきびよりだ。こういうすがすがしい気分になると、又、元気が出てきて、もう一日だけ、なんとか頑張ってやろうという気になった。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
ポカポカする秋日和あきびより頬冠ほおかむりは少し鬱陶うっとうしいが、場所柄だけに、少し遅い朝帰りと思えば大して可笑おかしくはありません。
砂や小石は多いが、秋日和あきびよりによく乾いて、しかも粘土がまじっているために、よく固まっていて、海のそばのようにくるぶしを埋めて人を悩ますことはない。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「あ、あ、秋日和あきびよりで、菅公なぞはハイキングとしゃれてるのに、朝から夫婦喧嘩か、こっちが厭になるよ。——伸ちゃんもお出でッ、襯衣買ってやるよ」
泣虫小僧 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
先ほど言ったように、その日は晴れた秋日和あきびよりだった。空はすきとおってうららかで、自然界はゆたかな金色の衣をつけ、豊穣ほうじょうな実りを思わせるのだった。
「オオいい秋日和あきびよりじゃの。……郁次郎もこのぶんでは、道中つつがなく、帰府の旅をいそいでおるじゃろう」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
本多少佐の葬式の日は少しものない秋日和あきびよりだった。保吉はフロック・コオトにシルク・ハットをかぶり、十二三人の文官教官と葬列のあとについて行った。
文章 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
空の澄み切った秋日和あきびよりなどには、よく二人連れ立って、足の向く方へ勝手な話をしながら歩いて行った。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「おお、となり村の千枝まか。ほんによい秋日和あきびよりじゃよ。秋も末になると、いつも雨の多いものじゃが、ことしは日和つづきで仕合わせじゃ。わしらのあきないも降ってはどうもならぬ」
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
……其處そこで、昨日きのふ穿いたどろだらけの高足駄たかあしだ高々たか/″\穿いて、透通すきとほるやうな秋日和あきびよりには宛然まるでつままれたやうなかたちで、カラン/\と戸外おもてた。が、咄嗟とつさにはまぼろしえたやうで一疋ひとつえぬ。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
素十居を秋日和あきびより安心す 虚子
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
ポカポカする秋日和あきびより、頬冠りは少し鬱陶うつたうしいが、場所柄だけに、少し遲い朝歸りと思へば大して可笑をかしくはありません。
おじいさんも、このごろ、こんなようながつづきました。戸外こがいは、秋日和あきびよりで、空気くうきがすんでいて、はるかのふもとをとお汽車きしゃおとが、よくきこえてきます。
とうげの茶屋 (新字新仮名) / 小川未明(著)
秋日和あきびよりのつくほど上天氣じやうてんきなので、徃來わうらいひと下駄げたひゞきが、しづかな町丈まちだけに、ほがらかにきこえてる。肱枕ひぢまくらをしてのきからうへ見上みあげると、奇麗きれいそら一面いちめんあをんでゐる。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
きょうはまたすばらしい秋日和あきびよりだ。午前中、クロオデルの「マリアへのお告げ」を読んだ。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「ヨオロッパでは寒さが早く来ますから、こんな秋日和あきびよりの味は味うことが出来ませんね」
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その翌日は秋日和あきびより、天高く柿赤く、枯草に虫飛ぶ上天気であった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
雲あれど無きが如くに秋日和あきびより
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
翌る日の朝は、運惡くドシヤ降り、早立ちは駄目になりましたが、間もなく素晴らしい秋日和あきびよりになつて、上り下りの旅人は一ぺんに旅籠屋から流れ出しました。
ほんとうにあたたかな、よくれたそら太陽たいようえて、かぜすらない秋日和あきびよりでありました。おおきな銀杏樹いちょうのきうえで、小鳥ことりくほかに、だれもおばあさんをおびやかすものはなかったのです。
善いことをした喜び (新字新仮名) / 小川未明(著)
秋日和あきびよりと名のつくほどの上天気なので、往来を行く人の下駄げたの響が、静かな町だけに、朗らかに聞えて来る。肱枕ひじまくらをして軒から上を見上げると、奇麗きれいな空が一面にあおく澄んでいる。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わんほどの竹生島ちくぶしま見え秋日和あきびより
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
あくる日の朝は、運悪くドシャ降り、早立ちは駄目になりましたが、間もなく素晴らしい秋日和あきびよりになって、上り下りの旅人は、一ぺんに旅籠屋から流れ出しました。
手をかざし祇園詣ぎおんもうで秋日和あきびより
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
秋日和あきびよりの庭は一入ひとしおの風情だろう、豊、ともをせい」
礫心中 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)