白膠木ぬるで)” の例文
いままで洋服箪笥のあった壁の上に、芽出しの白膠木ぬるでの葉繁みがレースのような繊細な影を落しているのが、なぜかひどく斬新な感じがした。
肌色の月 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
さういふ村落むらつゝんで其處そこにも雜木林ざふきばやしが一たいあかくなつてる。先立さきだつてきはどくえるやうになつた白膠木ぬるでくろつちとほあひえいじてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
馬子うまこは、諸皇子群臣に勧めて、守屋を滅さんことを謀る(紀)。厩戸皇子は、白膠木ぬるでを切り取り、四天王像を作り、誓文を発す(紀)。馬子も又誓言を
一切のからが今はかなぐり捨てられた。護摩ごまの儀式も廃されて、白膠木ぬるでの皮の燃える香気もしない。本殿の奥の厨子ずしの中に長いこと光った大日如来だいにちにょらいの仏像もない。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
常見てはありとも見えぬあたりに、春来ればすももや梅が白く、桃が紅く、夏来れば栗の花が黄白く、秋は其処此処に柿紅葉、白膠木ぬるで紅葉もみじ、山紅葉が眼ざましくえる。雪も好い。月も好い。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
やなぎ白膠木ぬるでの木を削っていろいろの飾りをつけた祝い棒がこのために銘々めいめいに与えられる。それでたんたんと横木をたたいて、心まかせに鳥を追うことばとなえるのが、いわゆる鳥小屋の生活であった。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
白膠木ぬるであふちこそあれ、葉廣菩提樹はびろぼだいじゆ
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
蘆雪ろせつ庵の系統をひいているのか、池の汀に紅葉した白膠木ぬるでが一本あるだけで、庭木らしいものはひとつも見あたらず、夕風に揺れて動く朱の色が
西林図 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
白膠木ぬるでの皮の燃える香気と共に、護摩ごまの儀式が、やがてこの霊場を荘厳にした。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
二十九日、なにがしの寺の庭にある白膠木ぬるでの老木の實をむすびたるを見て
長塚節歌集:1 上 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
雑木林の楢にから自然薯じねんじょつるの葉が黄になり、やぶからさし出る白膠木ぬるでが眼ざむる様なあかになって、お納戸色なんどいろの小さなコップを幾箇もつらねて竜胆りんどうが咲く。かしの木の下は、ドングリがほうきで掃く程だ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
白膠木ぬるであふち、名こそあれ、葉廣はびろ菩提樹ぼだいじゆ
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
「……白い壁、……鉄の寝台、……窓の外の白膠木ぬるで……。なにもかも、むかしのままね。ちっとも変わらない。……ふしぎな気がする。……遠い遠いむかしにひき戻されたようで……」
キャラコさん:06 ぬすびと (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
おしなべて白膠木ぬるでの木の實鹽ふけば土は凍りて霜ふりにけり
長塚節歌集:3 下 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
万感ばんかん胸に迫って、むしろなんの感慨もないにひとしい。端座してしずかに庭のほうを眺めやると、築山つきやまの下に大きな白膠木ぬるでのもみじがあって、風が吹くたびにヒラヒラと枯葉を飛ばす。
窓に月の光が射し、白膠木ぬるでこずえが墨絵のようにれている。