法螺ほら)” の例文
ちょいとのぞいてみると、いわく「世界お伽噺とぎばなし法螺ほら博士物語」、曰く「カミ先生奇譚集きたんしゅう」、曰く「特許局編纂へんさん——永久運動発明記録全」
そうしてどこにか、落城の折の、法螺ほらの音を聞くような、悲痛の思いが人のはらわたを断つ……山形の臥竜軒派では、これをこう吹いて……
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
つまり、コルシカが勝ったのだ! これで以後忌々いまいましいマルセーユ人は、牛角力コンバに関する限りあまり大きな法螺ほらは吹かないであろう。
若者はもいを蹴って部屋の外へ馳け出した。間もなく、法螺ほら神庫ほくらの前で高く鳴った。それに応じて、銅鑼どらが宮の方々から鳴り出した。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
時珍より約千五百年前に成ったローマの老プリニウスの『博物志』は、法螺ほらも多いが古欧州斯学しがくの様子を察するに至重の大著述だ。
最近一層騰貴とうきした諸材料のことなどに考え及び、あいつ、法螺ほらを吹いたのかと考え、どうも変だ、おかしい、おかしい、と呟いた。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
そこでは物語人ストーリーテラーが前に書いたように、法螺ほら貝から唸り声を出し、木の片で机をカチカチたたき、聞きほれる聴衆を前に、演技していた。
イワンは法螺ほらふきだよ、なにもそんなにたいした学者じゃないがな、……それどころか、特別な教育というほどのものさえないくせに。
「あらまあ、よく真面目であんな嘘が付けますねえ。あなたもよっぽど法螺ほらが御上手でいらっしゃる事」と細君は非常に感心する。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
法隆寺にゐる北畠男爵などはその一にんで、暴風あらしのやうなあの人一流の法螺ほらは一寸困り物だが、夏帽だけはパナマの良いのを着けてゐる。
法螺ほら陣鐘じんがねの音に砂けむりをあげつつ、堂々と街道かいどうをおしくだり、蒲原かんばら宿しゅく向田むこうだノ城にはいって、松平周防守まつだいらすおうのかみのむかえをうけた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「本人は山伏やまぶし崩れだと言つてはゐますがね。野伏せり見たいな野郎で、八祈祷きたう禁呪まじなひも心得てゐる上に法螺ほらと武術の達人で」
月光散りしく城内はるかの広場の中を騎馬の一隊に先陣させた藩兵達の大部隊が軍鼓を鳴らし、法螺ほらを空高く吹き鳴らし乍ら
十万石の怪談 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
それも、ワグナー流の法螺ほらを事とする誤った種類のものでではない。交響曲シンフォニー合唱コーラス舞踊ダンスなのだ。演説はいけない。演説には飽き飽きだ。
「あれは些っと法螺ほらもあるよ。御苦労な男だと思っていたが、斯うなると有難い。どれ、一つ報告に行って来なけりゃならない」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
その時、丸彦はとつぜん、右手の大きな法螺ほらの貝を、馬の耳もとにくつつけて、息いっぱいに、ぶうぶうと吹きならしました。
長彦と丸彦 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
その時浜の方で法螺ほらの音がしはじめた。人夫に仕事をかす合図であった。仕事を措いた人夫が囂囂がやがや云いながらあがって来た。
海神に祈る (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
東京市中到る処に軒並べて(法螺ほらではない)出来た安飲食店や弁当屋、カフェー等は彼等の唯一の慰安所でなければならぬが
新聞記者などが大臣をそしるを見て「いくら新聞屋が法螺ほら吹いたとて、大臣は親任官、新聞屋は素寒貧、月と泥龜すつぽん程の違ひだ」などゝののしり申候。
歌よみに与ふる書 (旧字旧仮名) / 正岡子規(著)
おりから、忽然、窟外に当たって吹き鳴らす法螺ほらの声高く、陣太鼓さえ打ちまじり、武者押しすると思われて、勇ましくも物凄く響いて来た。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一つ一つ言葉を選んで法螺ほらで無い事ばかり言おうとすると、いやに疲れてしまうし、そうかと言って玄関払いは絶対に出来ないたちだし、結局
未帰還の友に (新字新仮名) / 太宰治(著)
浅草公園六区の瓢箪池ひょうたんいけを、現在のように改修のため、明治二十年ごろ池底を掘り下げて行くと、意外にも赤ニシや法螺ほらの貝が大小数十個現われた。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
弁舌は縦横無尽、大道に出る豆蔵まめぞうの塁を摩して雄を争うも可なりという程では有るが、竪板たていたの水の流をせきかねて折節は覚えず法螺ほらを吹く事もある。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ところが、人間の発表欲というものが、その限界を乗り超えて、法螺ほらを吹き立てるような音声を案出したのですね。
幻滅 (新字新仮名) / パウル・トーマス・マン(著)
大助が発見されたのは、戦が終って、馬寄せの法螺ほらが鳴りわたったあとのことだった。高折又七郎が思いだして、四五人の兵といっしょにやってきた。
一人ならじ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
自分単独の力で人がまだ行っていない山へ登躋とうせいして、それに自分の記文と写真を載せたということは、生来はじめてであるから法螺ほらでも自慢でもないが
平ヶ岳登攀記 (新字新仮名) / 高頭仁兵衛(著)
法螺ほら吹で、頭のいいことは無類で、礼儀知らずで、大酒呑で、間歇的かんけつてきな勉強家で、脱線の名人で、不敵な道楽者……ガンベはそういう男だったのだから
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
やがて二十五人ずつ隊伍たいごをつくった人たちは樋橋を離れようとして、夜の空に鳴り渡る行進の法螺ほらの貝を聞いた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
父は乱暴で法螺ほら吹きの数学教師であって、結婚したことがなく、老年にもかかわらず家庭教師に出歩いていた。
こんな無理な事はない。学校の方でも今までは四角なものを円くするというような法螺ほらふいていたものだ。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
本質的な法螺ほら吹であつた。何でも知らないといふことがない。何か人が話をしてゐると、ウム、それは、と云つて横から膝を乗り入れてくる。何でも知つてゐる。
足のない男と首のない男 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
あるいは兵制は甲州流がいと云て法螺ほらの貝をふいて藩中で調練をしたこともある。ソレも私はただ目前もくぜんに見て居るばかりで、いとも悪いとも一寸ちいとも云たことがない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
伍一の眼には皺くちゃのニコニコ絣を着た多吉が勝手放題な法螺ほらを吹きちらしながら自動車の中にふんぞりかえっている恰好までがありありと見えるようであった。
菎蒻 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
いずれの船からも陣鉦じんがね法螺ほらの貝などを鳴らし立てて、互いにその友伴れをあつめ、帰りは櫓拍子に合わせて三味線の連れ弾きも気勢いよく、歌いつ踊りつの大陽気
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
神職は留守じゃが、身が預る、と申したのが、ぼやっと、法螺ほらの貝を吹きますような、籠った音声おんじょう
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とし一年と日がたつにつれ、追々ハッキリした意識となって、いまはもう、子供のためにこうして働きながら、酔ったまぎれに法螺ほらとも愚痴ともつかぬ昔話をするのが
動かぬ鯨群 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
C氏がこの譬喩でもつてA氏をも含めての南露人の法螺ほら吹きの一面を笑ひ飛ばしたことを卒然として悟つたが、さりとてあの令嬢の一件をまんざらA氏の千つ——否
三つの挿話 (新字旧仮名) / 神西清(著)
かの男は閉口してつくづく感心し、なるほどなるほど法螺ほらとはこれよりはじまりけるカネ。(終)
ねじくり博士 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その時分に神下しが「もし英国政府が攻めて来る憂いがあれば乃公おれの身体を持って行って城の所へ据えて置け。そうすれば決して彼らは寄付よりつくことが出来ない」と法螺ほら
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
少し法螺ほらを吹きすぎたのに気がついて、ただ宙に手を一つ振っただけで、こう言葉をつづけた。
それから己が色々と法螺ほらを吹いて近所の者を怖がらせ、皆あちこちへ引越ひっこしたをいしおにして、己もまたおみねを連れ、百両の金をつかんで此の土地へ引込ひっこんで今の身の上
隣単の雲水たちが、相集って法螺ほらを吹いているのも耳にかけず、座禅三昧に心を浸した。
仇討三態 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
どうもう人の居ない海岸などへ来て、つくづく夕方歩いてゐると東京のまちのまん中で鼻の赤い連中などを相手にして、いゝ加減の法螺ほらを吹いたことが全く情けなくなっちまふ。
楢ノ木大学士の野宿 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
(幾分法螺ほらもあるだろうが)——私は、ドサ回りの役者のピーピー状態から、一躍そんな金が取れるようになったのだから、オダをあげたくなるのも無理からぬことと思い、また
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
しかし本人は別に法螺ほらを吹くつもりで言っているのではなく、本当にそれでフランス語をやったといえるつもりなのである。この調子でM氏はドイツ語も漢詩も和歌も皆やるという。
狼疾記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
のみならず、新聞記者を相手に、法螺ほらを吹いたり、自分の話が何々氏談などとして、新聞に載せられたりすることは、大人気ないとは思いながら、誰しも悪い気持はしないものである。
二銭銅貨 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ましてその竜が三月三日に天上てんじょうすると申す事は、全く口から出まかせの法螺ほらなのでございます。いや、どちらかと申しましたら、天上しないと申す方がまだ確かだったのでございましょう。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
このそねみと卑しめとは、他に対する批判と厳密に区別されなくてはならない。法螺ほらふきをそしるとか、自慢話を言いけすとかというのは、正当な批判であって、そねみや卑しめではない。
切れもなく語りつがれているが、村々の子供には玉というもの、それに七曲ななまがりの穴を通したものなどということは考えにくいので、信州の南のほうではこれを法螺ほらの貝に緒を通すといい
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その中を、なぎさでは法螺ほら貝が鳴り渡り、土人どもは、かい帆桁ほげたに飛びついた。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)