むさ)” の例文
貴方はそれでよいじゃろが、むさ身装みなりをしていては、綺羅きらやかな遊廓さとの席に、雑巾ぞうきんが置いてあるように見ゆるではないかの。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自動車が飛田とびた附近あたりへ来ると、むさ豚小舎ぶたごやのやうなうちから、一人の若者が転がり出して、車の前に大の字なりになつた。
「でも、大変むさい所でございますので、あなた方にいらしていただくような……」と、遠慮がちに言いなおした。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
認められたらそれまでである。認められないのに、こちらから思い切って持ち出すのは、肌を脱いでむさ腫物しゅもつを知らぬ人の鼻のさきにおわせると同じ事になる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分はむさい色目も分らぬ襤褸らんるを着て甘んじ、慾得ずくからの職業産業から得るのでない食物を食って足れりとし、他を排しおのれを護る住宅でもないところに身を安んじ
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
なしてもとの如く風呂敷に押包せ丁稚でつち脊負せおはいさみすゝんで歸りけるが和吉は霎時しばらくかたへに在て二個ふたりが話しを熟々つく/″\きゝ主個あるじの息子が昨日きのふこゝより歸りしわけも今日は又態々わざ/\こゝまで忠兵衞が來りてむさうちをもいとはず酒を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
むさいもの、何がある。)
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「わしも、傍杖そばづえくって、こんなむさい所へちてしまったので、見もせなんだが、跫音はたしかに、あっちへ遠のいて行った」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むさはじだまは、ある時は禅僧のやうな露伴の懐中ふところに飛び込み、ある時は山狗やまいぬのやうな緑雨の襟首に滑り込み、またある時は気取屋の紅葉の鼻先きをかすめて飛んだ。
きはめわけきかほしと腹の立まゝやぶからぼうにまくりたてつゝいひければ忠兵衞呆氣あつけとらるゝのみ少も合點がてん行ざれどもお光の事とは大方にすゐせばいよ/\わかかねなほ押返おしかへして問けるに主個あるじは今方店へ來し醫師がのべたるテレメンテーナの藥の事より大藤の女兒むすめかうと話したるが和郎は大事な主人のよめ途中とちうなんどで轉倒ひつくりかへ天窓あたまむさ草履ざうり草鞋わらぢ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「先生、とにかく今夜は、むさい小屋じゃございますが、てまえどもの家へお泊りくださいませんか。ここの一杯屋も、晩まではやっておりませんので」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
玄関にいぬつないでゐるうち、九官鳥を飼つてゐるうちむさくるしい書生を飼つてゐるうち、猫がぞろ/\這ひ出して来るうち——そんなうちへは添書てんしよをつけて悪魔でも送つてやり度くなる。
「はッ……。来合わせてはおりましたなれど、御覧のごとく、平常のむさ身装みなりをいたしおりましたゆえ、君前にまかり出るも、不作法と存じ、わざとこれに差し控えて」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なんの御案内仕りまする。むさくらではございますが、どうぞ、それがしの駒の背へ」
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あなたは、もともと、伊勢平氏のいなか育ちで、むさい貧乏も、性に合っているかもしれませんが、わたくしは、都そだちです。親類縁者とて、みな藤原一門の公卿堂上ばかりですからね。
つとにくるんだ土民の衣裳やら草鞋わらじなどであった。牛若の衣裳はすべて脱がせ、代りにそれを着せて、むさいぼろきれで顔をつつんだ。背には背荷せお梯子ばしごとよぶ物をしょわせて、短い山刀を腰にさして与えた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あれは、むさじじを相手にする遊戯あそびではない」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
迦羅奢がらしや。あんなむさい長屋は取払え」