根笹ねざさ)” の例文
やはり時刻はもう暮近くに、なにげなしに外を見たところが、宿からわずか隔たった山の根笹ねざさの中に、腰より上を出して立っていた。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
女郎屋ぢよらうやふわけにはかず、まゝよとこんなことはさてれたもので、根笹ねざさけて、くさまくらにころりとたが、如何いかにもつき
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
根笹ねざさの藪にかこまれた、風のあたらないところに、毛布で包んだ生後二ヵ月ぐらいの赤ん坊が、鼻歌をうたうような調子で泣いている。
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
具足のおどし濃藍こいあいで、魚目うなめはいかにも堅そうだし、そして胴の上縁うわべりはな山路やまみちであッさり囲まれ、その中には根笹ねざさのくずしが打たれてある。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
台所の流しの下には、根笹ねざさや、山牛蒡やまごぼうのような蔓草つるくさがはびこっていて、敷居しきいの根元はありでぼろぼろにちていた。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
青い刻煙草きざみたばこの吸殻のような光があった。それは根笹ねざさ葉裏はうらに笹の葉の繊維をはっきり見せていた。
馬の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
蟠龍軒は高い処へ上って向うから来るかと見下みおろす、処が人の来る様子がございませんから、神田の方から人が来て認められてはかなわぬと思いまして、二番河岸の根笹ねざさの処へしゃがんで居りますと
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
たしない路銀ろぎん女郎屋ぢよらうやふわけにはかず、まゝよ、とこんなことは、さてれたもので、根笹ねざさけて、くさまくらにころりとたが、如何いかにもつき
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
大雪おほゆきです——が、停車場前ステエシヨンまへ茶店ちやみせでは、まだ小兒せうにたちの、そんなこゑきこえてました。時分じぶんは、やま根笹ねざさくやうに、かぜもさら/\とりましたつけ。
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
うれしや日が当ると思えば、つのぐむあしまじり、生茂おいしげ根笹ねざさを分けて、さびしく石楠花しゃくなげが咲くのであった。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
手巾ハンケチを引出して、根笹ねざさは浅く霜をのせたが、胸に抱いたら暖かそうに、またふッくりと日の当る、路傍みちばたの石一個ひとつ、滑らかなおもてを払うて、そのまま、はらりと、此方こなたへとて。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)