情夫いろ)” の例文
或時は小歌に旦那もある情夫いろもある、黒の羽織が其旦那で其情夫で、とつ此貞之進も欺かれるのかとまで決着を附けたこともあったが
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
、口にも出さず、情夫いろにもなれぬと思うと、私は本当に気の毒だから私は早く死んで上げて、そうして二人を夫婦にして上げたいよ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
四、五たび両妓ふたりがぶつかるうちに、当然、黒さんをはさんで張りッこになった。お鷹は、お蝶に情夫いろがあるのを知っていたので
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女は去年の三月頃から引っ越して来て、二十五六の番頭と二人暮らしだが、その番頭というのが亭主か情夫いろだろうという近所の評判ですよ。
半七捕物帳:51 大森の鶏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
まず須永の五六軒先には日本橋辺の金物屋かなものやの隠居のめかけがいる。その妾が宮戸座みやとざとかへ出る役者を情夫いろにしている。それを隠居が承知で黙っている。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「唯の女——つて奴があるか。女郎上りが有難きや、お前一人で行つて見るが宜い。昔の貧乏臭い情夫いろが、まだ其邊にウロ/\して居るかも知れねえ」
おせい様の情夫いろの日本橋の太物商磯屋五兵衛といっしょに、その磯五の妹として御馳走になりに乗りこんで来たのを久助が見ると、それが娘のお駒だった。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「ナニネ、先刻さっき我輩が明治年代の丹治と云ッたのが御気色みけしきに障ッたと云ッて、この通り顔色まで変えて御立腹だ。貴嬢あなた情夫いろにしちゃアと野暮天すぎるネ」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
女役者の扇女の情夫いろは、途方もなく綺麗なお武家さんだったとね。……何をぼんやりしているんだよ。日中狐につままれもしまいし。……早くお帰り早くお帰り!
前記天満焼 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「そうかい、済まないねえ。私だって、あの前検事殿には、満更でもなかったんだから。それはそうと、お女将かみさんのとこから、稲野谷いなのやというあの情夫いろ、帰っただろうか」
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「お前の旦那になってやるよりも、情夫いろになって可愛がってやる方が洒落しゃれてるじゃないか」
娘は娘で軍人を情夫いろに持つことは、むしろ誇るべきことである、とまで思っていたらしい。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
たれ其奴そいつには尻押しりおしが有るのだらう。亭主が有るのか、あるひ情夫いろか、何か有るのだらう」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
長さんは情夫いろをかさに着て、おきみの名で三十圓、五十圓と主人から借りて行くやうに見せかけて、實はその二割ほどを、政略的情夫ひもの手數料として自分の懷へ入れるだけであつた。
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
おきぬさんは亭主でも情夫いろでもねえ時さんの世話になって、生んだ赤ン坊と共に死んじまった。親分、おきぬという人はね、夜明けまでは、自分の気一つでもがきにもがいて生きていた。なあ婆さん。
沓掛時次郎 三幕十場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
おい、あの背高のっぽうのジャッケはお前の情夫いろなんだろう
生さぬ児 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
「あれは情夫いろさ。」深山はとぼけてそう言った。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
旦「いやさ、彼の娘を連れてッて、情夫いろがある種を知って居るから両人ふたりしっぽり会わしてろうッてんだが何うだえ」
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「元より、初めからの約束だ。おまえがそれを、情夫いろみつごうが、どんな借金につかおうが、何も訊こうとは云わないから、安心して取っておくがいい」
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こいつア正にお説通りで、女芸人ともあるものが、情夫いろなんかこしらえちゃアいけませんねえ。よろしく旦那は一時に、五人以上持つがよく、他に客色を三人ね。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「何んと言つても、親分と面と向つちや、頼み憎いんでせうよ。其處へ行くとあつしなんか人間がちよくだから、金を貸せと言へばハイ、情夫いろになつてくれと言へばハイ」
従弟の政吉というのは彼女の情夫いろで、十右衛門の懐中に五十両の金をもっているのを知って、あとからけて来て強奪したのであろう。役人たちの鑑定は皆それに一致した。
半七捕物帳:10 広重と河獺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
黒の羽織と云うのがお酌の頃からの深間であるとして見ると写真を取りに行ったことは淀文の二階で聞いたことがあれば、それが小歌の情夫いろに相違無く、旦那もある情夫もあるとすると
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
それに就いては小説的の閲歴ライフがあるのさ、情夫いろぢやない、亭主がある、此奴こいつが君、我々の一世紀ぜんに鳴した高利貸アイスで、赤樫権三郎あかがしごんざぶろうと云つては、いや無法な強慾で、加ふるに大々的媱物いんぶつと来てゐるのだ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それが来たっていうのは、つまり自分の情夫いろ旦那がこの土地の知事さんになって来たからのことなんでしょ
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
合せる人間があるものか。それは、死んだあとで曲者が直してやつたのだよ。流しや氣紛きまぐれの殺しぢやない。女の身内の者か、亭主か情夫いろか、かゝはりのあるものの仕業だ
ちょっと三八さん、あの何だね、一昨年おととしの九月四日にね………贔屓だって情夫いろでも何でも無いのですが………あの晩にお帰りなさらなきゃア彼様あんなことは無いものを……あれを
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
てめえは御成道の横町のお化け師匠の情夫いろか、亭主か。なにしろ久し振りでたずねて行くと、師匠は若けえ男なんぞを引っ張って帰って来て、手前に逢っても、好い顔をしねえ。
半七捕物帳:05 お化け師匠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「お北さんには出来ると見えて、甚三さんは捨てられない、富士様とも離れられない、こういっているのでございますよ」「——つまり情夫いろ客色きゃくいろだな」「いいえどっちも本鴨ほんかもなので」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
殺された美人婆惜ばしゃく情夫いろ張文遠ちょうぶんえん(張三)である。——彼はすすんで事件の捜査係を買って出、兇行現場の死体調べから近所衆の口書くちがきあつめまで手を廻していた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お羽織藝者の頃から情夫いろが何人あつたかわからねえが、深間といふのは能役者の杉本友之助で、妾宅へ入り浸つてゐたのが——板屋家の奧方が死んで、あの女が乘込んだ時は
ヘエうでございますか、本当に二人が情夫いろか何かなれば、ずうっと行くが、なんでもなくってはうはいきませんが、下総と云えば、んですね、かさねの出た処を羽生村と云うが
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「亭主でも情夫いろでも兄弟でも構わねえ。あの女に付いている男は誰だっけね」
半七捕物帳:02 石灯籠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ふん、いい気味だ、思い知ったか。……わたし最初はじめあの人が好きで、香油においあぶらで足を洗い、精々ご機嫌を取ったのに、見返ろうとさえしなかったんだからね。そこでカヤパを情夫いろにして、進めてあの人を
銀三十枚 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「だからわたしが断っておいたじゃないか。——あの情夫いろは、みおの伝兵衛という大泥棒なのだよ」
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「でも、この寮へ、時々忍んで來る男があるといふぢやないか。隅田川を船で渡つて、水門から入るのは、洒落しやれれたものだね。いづれ船頭衆か何んかを情夫いろに持つてゐるんだらう」
「こんな商売、情夫いろがなくては、立ち行くものじゃアありませんよ」
前記天満焼 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「まさか情夫いろになった訳じゃあるめえな」
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
旦「何か情夫いろでも有るのかえ」
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
いっていた。そればかりじゃねえ。八丁堀のお島に可愛がられて、お島の情夫いろの赤螺三平に、あぶなく叩ッ斬られるところだったそうだが、三平が怖くて、逃げ廻っているのか
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お羽織だつた頃の情夫いろは言ふ迄もなく板屋順三郎のお妾のお禮が身性みじやう、ことに男出入りを念入りに調べるんだ。二十年も二十五年も前のことだが、そんな事は不思議に世間の人は忘れないものだ
「さてその八重梅だが情夫いろがあるそうだ。どうせ女の芸人のこと、あっちを引っかけこっちを引っかけ、あくどく稼ぐのはいいとしても、情夫を持つとは気が知れねえ」こう云ったのはいさみの兄さん。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「あの娘には情夫いろでもあるかえ」
半七捕物帳:29 熊の死骸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「悪かったわね。知事さんを情夫いろに持ってはいけないなんておきては女芸人の仲間にはござんせんのよ。大きなお世話じゃないか。猫の干物ひものみたいな婆のクセにして、おきでないよ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「藝人を情夫いろに持つて、下谷中の評判になり、親に勘當されたことも御存じでせう、男は江戸一番の薄情者、俵屋の身上を貰ふ見込がないとわかると、難癖をつけてわたしと別れてしまひました」
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
これこそ泥棒の所業しわざであろう……なんと白萩、お前の情夫いろ
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「あそこにいる花扇はなおうぎさん、その隣にいる梶葉かじはさん、みんな、坊さんを情夫いろに持ってるんだよ。私のとこへだって、叡山えいざんから来る人もあるし、寺町へ、こっちから、隠れて行くことだってあるんだよ」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「たいそう気が多いんだな、それがお政の情夫いろ旦那だんなか」