)” の例文
T君は勿論もちろん僕などよりもこう云う問題に通じていた。が、たくましい彼の指には余り不景気には縁のない土耳古トルコ石の指環ゆびわまっていた。
歯車 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
やや長く伸びた髪、肩先にとまつてゐる頭花ふけ、随分ぢぢむさい顔なり姿なりだなと卓の向うにめてある鏡を見ながら礼助は思つた。
曠日 (新字旧仮名) / 佐佐木茂索(著)
帆村は、短くなった洋杖を、今開いた引戸の敷居にしっかりめこんだ。この秘密の引戸が再び閉まらないようにするためであった。
千早館の迷路 (新字新仮名) / 海野十三(著)
池の中で旗亭の風雅な姿は積み重なった洋傘のようにゆがんでいた。その一段ごとに、鏡をめた陶器の階段は、水の上を光って来た。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
そして外衣を着けて琥珀と猫眼石とのめ込みのある臥榻がとうに凭れて充分に涼を納れた頃に、女が来てさらにこちらへと導いていった。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
その婦人は繻珍しゅちん吾妻袋あずまぶくろを提げて、ぱッとした色気の羽二重の被布ひふなどを着け、手にも宝石のきらきらする指環を幾個いくつめていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
まりにくいシャツの扣鈕ぼたんを嵌めていると、あっちの方から、鈍い心配気な人声と、ちゃらちゃらという食器の触れ合う音とが聞える。
私はコンビネエションめている。私赤い絹巻煙草の煙、吐き出すと気取ったマドモワゼル花田の靴音が廊下をピアノのようにたたく。
恋の一杯売 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
そして友達と雑談をするとき、「小説家なんぞは物を知らない、金剛石こんごうせき入の指環ゆびわめた金持の主人公に Manila を呑ませる」
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
いつもめている金のさ。あれがないんですって、確かにさっきまであったんだから、小屋の中で落したに違いないっていうのよ。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
一間半の古格子附いたる窓は、雨雲色にくすぶりたる紙障四枚を立てゝ、中の二枚に硝子まり、日夕庭の青葉の影を宿して曇らず。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「蝶貝でも随分いい色のあるものね、絵具箱にするんだって、まるで大きなオパールをめこんだようなのを見てきてよ——今日」
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
油障子をめた小さな切窓から、朝あけのようにほの白い光がさしこんで、六じょうばかりの狭い部屋の中をさむざむとうつし出している。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
これを漢字に当てめると『あい』ともなれば『あい』ともなる。『あい』ともなれば『あい』ともなる。そうかと思うと『あい』ともなる。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この科の字は「植物学」の訳字と同様我が日本人の案出した字ではなくこれもまた支那人が Family に当てめた字面である。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
短い棒を手にして梯子はしごを登って行って、といの中にすっかりまって巣をねらって、逃げようともしない蛇を、やっと追立ててくれました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
忽ち又千百の巨礮きよはうを放てる如き聲あり。一道の火柱直上して天を衝き、ほとばしり出でたる熱石は「ルビン」をめたる如き觀をなせり。
さしわたし何十尺の円をえがいて、周囲に鉄の格子をめた箱をいくつとなくさげる。運命の玩弄児がんろうじはわれ先にとこの箱へ這入はいる。円は廻り出す。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ねえ熊城君、たしかあの男は、拱廊そでろうかにあった具足の鞠沓まりぐつを履いて、その上に、レヴェズの套靴オヴァ・シューズを無理やりめ込んだに違いないのだ
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
土蔵くらを脱け出すくらい何でもなかったのよ。妾あんまり口惜しかったから、アノお土蔵くらの二階の窓にまっていた鉄の格子こうしね。
狂人は笑う (新字新仮名) / 夢野久作(著)
この『徒然草』第百九十四段の中の「嘘に対する人々の態度の種々相」とかなりまでぴったり当てまるのは実に面白いと思う。
徒然草の鑑賞 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「お母さん、この頃は私立も官立も同じことです。っとも差異かわりありません。しかし二郎は官立の型にまらない頭ですからね」
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
先生を御覧なせえ、いきなりうしろからお道さんの口へ猿轡さるぐつわめましたぜ。——一人は放さぬ、一所に死のうともだえたからで。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今現に金の指環に真珠をむる細工に掛れる、年三十二三のさ男、成るほど女にも好かれそうなる顔恰好は是れが則ち曲者生田なるべし
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「これ、二つでたった五十銭さ。なに、これでも不断ふだんめていちゃすぐげるけど、着更えした時だけだったらちょっとだまかせるからね」
角帯に纏ひつけた時計の鎖は富豪の身を飾ると同じやうなもの。それに指輪は二つまでめて、いづれも純金の色に光り輝いた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そう言ううちにひざの上で、箏の調子はあっていた。大きな、厚い、角爪かくづめが指にめられると、身づくろいして首が下げられた。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
別のしかるべきのを見つくろってめ込んで置きさえすれば、差支えはなかろうではないか——ということに一同が一致してしまいました。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
朝鮮の工藝品において、私たちの眼を引く一つの特色は象嵌ぞうがんの手法である。人々はあの壁に石や煉瓦れんがめて美しい模様を出すことを好む。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
その前車は、大きな鉄の心棒と、それにめ込んである重々しい梶棒かじぼうと、またその心棒をささえるばかに大きな二つの車輪とでできていた。
彼の金持であることがたたって、彼の行く所、彼の云う声が、有象無象うぞうむぞうを呼び集めて、型のごとく、お大尽遊びの方程式にまってしまった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「機にかなって語る言葉は銀の彫刻物に金の林檎りんごめたるが如し」。「吾子よ我ら言葉もて相愛することなく、行為と真実とをもてすべし」
色がらすをめたる「ぶりっき」の燈籠の、いと大きくものものしげなるが門にかけられたるなど、見る眼いたく、あらずもがなとおもわる。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
伯爵は其箱を見、この答えを聴くより、たちまち露子の腕を取って、其腕に玉村たまむら侯爵から贈って来た腕環うでわめ満面にあふるるばかりのえみたたえて
黄金の腕環:流星奇談 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
その胴体に覆い隠された隙間すきまから、膝から上丈けの二本の細いももが窺いて見えて、それが泥まみれの躄車の中にきっちりとまり込んでいた。
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
後に欧洲おうしゅう彷徨ほうこうの旅で知つたのである。それは伊太利イタリーフロレンスの美術館の半円周の褐色のめ壁を背景にして立つてゐた。
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
かう言つて旦那は、お光に外させた比翼指輪を自分の節くれ立つた太い指にめかけてみたり、てのひらに載せてふは/\と目方を考へてみたりした。
兵隊の宿 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「幾ら立派でも綺麗でも、どうせ指環なんてものは、第二義的なものさ。綺麗な指にめてこそ価値があるものなんだ。」
指と指環 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
客間兼帯の書斎は六畳で、ガラスのまった小さい西洋書箱ほんばこが西の壁につけて置かれてあって、くりの木の机がそれと反対の側にえられてある。
少女病 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
め、中にはを入れておく。鶏は嘴が長いから柵をとおしてついばむことが出来る。犬は柵に鼻がつかえて食うことが出来ない。故に犬じらしという
故郷 (新字新仮名) / 魯迅(著)
蘆茎をやがらとし、猟骨を鏃とし、その尖にくだんの毒をけて簳中に逆さまに挿し入れおさめ置き、用いるに臨み抜き出して尋常に簳の前端にめ着く。
造ります際に数の都合上どうしても、きずのあるのを一つ使わねばならないので、ひさしの蔭に眼のつかない所へめたのです
真珠塔の秘密 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
これまで見たことのある厭な意地くねの悪い顔をいろいろ取りだして、白髪のかつらの下へめて、鼻へ痘痕あばたを振ってみる。
千鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
そしてチラッと振り向いて一目見るや否や、手早く栓を元にめた。きっと女が望んでいる品物でなかったに相違ない。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
その人らの捨てられたいうのんが型にまったように、結婚申し込んだら、何やすうッと消えるように逃げられてしもた
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
うまといふやつはあの身體からださけの二はいくちいれてやるとたちまちにどろんとして駻馬かんばでもしづかる、博勞ばくらう以前いぜんはさうしてわるうまんだものである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
天然石へパネルをめ込んだものだという、千曲川旅情の歌の碑は、城趾の崖の上にはあるにあるが、「千曲川いざよふ波の」という千曲川よりも
浅間山麓 (新字新仮名) / 若杉鳥子(著)
前の奴は泣きながらまた鎖の端を拾い取って、小さな輪を造ってはめ、造っては嵌めしている。そしていつの間にか、そいつの涙も乾いてしまった。
鎖工場 (新字新仮名) / 大杉栄(著)
ルビー入の指環ゆびわや、金の丸打などを両の指にめ込んでゐたし、小さな婦人持の時計までも帯の間にはさめてゐた。
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
もし、婚礼の日、指輪を新婦の指にめるかわりに、その輪を鼻へ通すのであったら、離婚は無用になるだろう。