女房かみ)” の例文
歩行あるくより難儀らしいから下りたんですがね——饂飩酒場うどんバアの女給も、女房かみさんらしいのも——その赤い一行は、さあ、何だか分らない、と言う。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二人はそれから田圃たんぼの中にある百姓家を訪れた。百姓家では薄汚い女房かみさんが、裸足はだしのまゝ井戸側ゐどばた釣瓶つるべから口移しにがぶがぶ水を飲んでゐた。
「おや、ま、どうなすつたんです?」と、店の女房かみさんが愕いて立つて來た。何といふ亂暴な事をするのだらうと、冷吉は捩ぢ切りたいやうに悔しかつた。
赤い鳥 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
「ホホ、それでは紀州の娘さんは、お女房かみさんには持てませんね」
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
私もさ……今ね、内の出窓の前に、お隣家となり女房かみさんが立って、とおりの方を見てしくしく泣いていなさるから、どうしたんですって聞いたんです。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
女房かみさん、お喜びなせいまし、今度の芝居にうちの親方の評判と来たら、それは/\素敵なもんでげすぜ。
と、院長の前には頭に手拭を被つた、在方ざいかた女房かみさんのやうなのが椅子にかゝつてゐた。
赤い鳥 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
農夫ひやくしやうはその豚の死骸に頭から、すぽりと自分の女房かみさんの服をかぶらせて、叮嚀に寝床に寝かせた。そしてその周囲まはりに蝋燭をともして、精々悲しさうな顔をしてゐた。
むかうの水道端すゐだうばたに、いまの女房かみさんが洗濯せんたくをしてる、うへ青空あをぞらで、屋根やねさへぎらないから、スツ/\晃々きら/\とほるのである。「おかみさん。」わたしんだ。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
廊下に跫音あしおと、ばたばたと早く刻んで、羽織袴の、宝の市の世話人一人、真先まっさきに、すっすっすっと来る、当浪屋の女房かみさん、仲居まじりに、奴が続いて、迎いの人数にんず
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うへ大屋根おほやねひさしぐらゐで、したは、ればちやう露地裏ろぢうら共同水道きやうどうすゐだうところに、よその女房かみさんがしやがんで洗濯せんたくをしてたが、つとあたまぐらゐ、とおもところを、スツ/\といてとほる。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「お稲ちゃんの方でも、嬉しくない事はなかったんでしょう。……でね、内々その気だったんだって、……お師匠さんは云うんですとさ、——隣家となり女房かみさんの、これは談話はなしよ。」
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
焼山やけやまの一けん茶屋ちやや旅籠はたごに、雑貨荒物屋ざつくわあらものやねた——土間どまに、(この女房かみさんならちやあつい)——一わんきつし、博士はかせたちと一いきして、まはりのくさ広場ひろばを、ぢつとると、雨空あまぞらひくれつゝ
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
まだ我樂多文庫がらくたぶんこ發刊はつかんらない以前いぜんおもふ……大學だいがくかよはるゝのに、飯田町いひだまち下宿げしゆくにおいでのころ下宿げしゆく女房かみさんが豆府屋とうふやを、とうふさんとむ——ちひさな下宿げしゆくでよくきこえる——こゑがすると
湯どうふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)