大店おおだな)” の例文
平次の強靱きょうじんな記憶力は、日本橋本銀町の浅田屋——江戸長者番付の小結どころに坐る大店おおだなの騒動を忘れているはずもなかったのです。
下谷長者町に、筆屋幸兵衛という、筆紙商ふでかみしょう老舗しにせがある。千代田城のお書役かきやく御書院番部屋に筆紙墨類を入れている、名代の大店おおだなだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
さすがは大店おおだなの旦那だ、お前達とは了見が違うぜ。俺が行って話をすると、そいつあ啓次の方がいけねえって、さんざん小言をくってた。
前置きは長くなったが、そのほとりの大店おおだなは、夕方早くから店の格子を入れてしまう。この格子は特長のあるいいものだった。
大店おおだなの若旦那だから、大方そんなことでしょうね」と、云いながら半七は少し考えていたが、やがて又しずかに云い出した。
十徳を着た宗匠体そうしょうてい、船頭らしい男、角鷹眼くまたかまなこの町人、堅気な大店おおだなの旦那ぜんとした者など、雑多な階級の色を集めていますが
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
銀座の××宝石商は、東京でも屈指の大店おおだなで、時価八十万円の首飾りが、一夜盗賊のために盗み去られたのであります。
紫外線 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
その場から連れて戻って、否応いやおうなしに、だん説付ときつけて、たちまち大店おおだなの手代分。大道稼ぎの猿廻しを、しまもの揃いにきちんと取立てたなんぞはいかがで。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのなかには急に落魄らくはくした人間が多く、倒産した商人とか、道楽のはてにおちぶれた大店おおだなの主人とか、もっとしばしば浪人者がいるというぐあいであった。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しかし、今度の一揆じゃ、中津川辺の大店おおだなの中には多少用心した家もあるようです。そりゃ、こんな騒ぎをおっぱじめた百姓仲間ばかりとがめられません。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「何某の大店おおだなの表看板を打ちこわして、芝の愛宕山あたごやまへ持って行ってあったそうな。不思議なこともあるものだ」
いずれ富貴繁昌の大店おおだなであろう。蔵開の日には一家の者を蔵に入れる慣例でもあると見えて、家格の順か、年齢順かによって順々に孫の男の子を蔵へ入れる。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
小いところから仕上げて大きくなって行った、大店おおだなの成功談などに刺戟しげきされると、彼女はどうでもこうでもそれに取着かなくてはならないように心がいらだって来た。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
隣家の土蔵との庇間ひあわいから、すべり入って、暗がりを、境の板塀をすと、奥庭——この辺によくある、大店おおだなの空家を買って、そのまま、米問屋をはじめたわけなので
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
宅へ帰ってどうすると云うあてもないので、銀座通りをぶらぶら歩き、大店おおだなのガラス窓の中を覗いてみたり雑誌屋の店先をあさってみたり、しばらくはほとんど何事も忘れていた。
障子の落書 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
三流四流の商店でもいさぎよしとはしないのに、夕日屋ともいわれる大店おおだながそれをやり出すに至っては、その窮し方の烈しさに腹も立たないで、涙がこぼれる——と噂をするものもある。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
藩か大店おおだなかの「公費」で遊学したという学生も、絶無に近かったものと思われる。
淡窓先生の教育 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
石町こくちょうで、大光斎といわれる大店おおだなの人形師、その家つき娘の、末起の母親おゆうはそりゃ美しかった。色白で、細面ですらりとした瘠せ形で、どこかに、人の母となっても邪気あどけなさが漂っていた。
方子と末起 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
寧ろ下町の大店おおだなの主人、商人風の好紳士、と云つたやうに見受けた。
青春物語:02 青春物語 (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しゅとお納戸なんどの、二こくの鼻緒はなお草履ぞうりを、うしろ仙蔵せんぞうにそろえさせて、おうぎ朝日あさひけながら、しずかに駕籠かごたおせんは、どこぞ大店おおだな一人娘ひとりむすめでもあるかのように、如何いかにもひんよく落着おちついていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
大店おおだなの旦那とでも云いたいような、人品と骨柄とを備えていた。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
中へ入ってみると、なんとなく顛倒てんとうして、大店おおだならしい日頃の節度もなく、奉公人たちはただうろうろと平次の一行を迎えるだけです。
大門通りも大丸からさきの方は、長谷川町、富沢町と大呉服問屋、太物ふともの問屋が門並かどなみだが、ここらにも西陣の帯地や、褂地うちかけじなどを扱う大店おおだながある。
旧聞日本橋:02 町の構成 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
きっと知らねえ者が見たら、あっしは人間がいきにできていやすから、さしずめ大店おおだなの若旦那、お嬢様はその許婚。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「宗様、宗様」と村中の者に言われて育って来た奉公人の眼中には、大店おおだなの番頭もあったものではなかった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「いそってえ名前だそうだ」六助が云った、「ゆうべは四十くらいにみえたが、今夜は五つ六つ老けてみえる、自分では大店おおだなの旦那らしいことを云っていたっけ」
秋の駕籠 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
と云うのはのお葉、こいつなかなか食えない奴で、この一件を知ったから黙っていない。相手は大店おおだなの若旦那株だから、おどかせば金になると思ってくらい付きました
ほどなく、きれいな楊柳ようりゅう並木の繁華街の一軒に、古舗しにせめいた大店おおだなの間口が見える。朱聯金碧しゅれんこんぺきの看板やら雇人やといにんだの客の出入りなど、問わでも知れる生薬問屋きぐすりどんやの店だった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
子供がよく遊びに来るので、近しくしていた向うのある大店おおだなの通い番頭の内儀かみさんも、その子供をつれてやって来た。この内儀さんは、叔母が存命中ちょくちょく芝居を見に行った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
この町人の一行はかなり贅沢ぜいたくな身なりをして、垢抜あかぬけのしたところ、どうもこの辺の小商人こあきんどとは見えない。そうかといって、しかるべき大店おおだなの旦那とか、素封家とかいうものとも見えない。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
女隠居は、六十前後、かつては日本橋あたりの大店おおだなの主人の囲い者だったそうで、下女一人を使って、つつましく暮しておりました。
大店おおだなや金持ともなれば、世間に知られたくないようなないしょ事が、二つや三つはあるもんだ、金で済むことなら世間に恥をさらすことはねえからな、その記事を
へちまの木 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
お城に近い日本橋両替町りょうがえちょう(現今の日本銀行附近)にかなりの大店おおだなであった、書籍と両替屋をかねて、町役人も勤めていた小熊という家もその数にはれなかった。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
伊豆伍いずごは、身上しんしょう二十五万両と言われる神田三河町の大店おおだなだ。一代分限だいぶんげんで、出生しゅっせいは越後の柏崎かしわざきだという。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あの御店おたなへ通うように成ったのも小父さんの世話であった。午睡でしわになった着物にも頓着とんじゃくせず、素朴で、かまわないその容子ようす大店おおだなの帳場に坐る人とは見えなかった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
貧乏はしても、大店おおだなふうに、家族は多かった。後家は六十に近い年であったが、江戸でも草分くさわけ老舗しにせを、自分の代でつぶしては、先祖へも申しわけがないと思うのだった。
鍋島甲斐守 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おみよの兄という人が下町したまちのある大店おおだなに勤めていて、その兄の方から月々の仕送りを受けているのだと母のおちかは吹聴ふいちょうしていたが、その兄らしい人がかつて出入りをしたこともないので
半七捕物帳:08 帯取りの池 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
小店こだなには、日々に空家あきやえて、大店おおだなは日に日に腐ったまま立ち枯れて、人の住まなくなった楼の塗格子ぬりごうしや、め果てた水色の暖簾のれんに染め出された大きな定紋じょうもんあかづいてダラリと下った風情ふぜいを見ると
日本橋の大店おおだなの若旦那との間に、——私が十六の時生んだでした。お店に置くのが面倒で、月々仕送って頂いてここに置きました。
土一升、金一升の土地に、杉の森という名はおかしいようだが、杉の森稲荷いなりの境内は、なかなか広く、表通りは木綿問屋の大店おおだなにかこまれて、社はひっそりしていた。
名高い大店おおだなの御隠居と唄われて、一代の栄華をきわめ尽したような婦人も、いかに寄る年波と共に、下町の空気の中へ沈みつつあるか——こういう話を娘達にも聞かせた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「うちは大店おおだなだし、二十六にもなる娘を嫁にやるとなれば、軽くやっても二百両や三百両はかかるだろう、それを百両で片がつくんだし、娘は初めて男の味を知るわけだ」
あすなろう (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
呉服問屋の山善やまぜんは、間口十八けん、雇人も何十人といる大店おおだなだが、賊は、堀留川の裏河岸から、石垣づたいに住居へ押し入り、主の善兵衛や妻に重傷を負わせ、召使の幾人かは
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「何も、あたしをチヤホヤしてくださる方は、鈴川の殿様ばかりとはかぎりません。鍛冶屋の富五郎さんだって、それから当り矢の店へ来てくだすった大店おおだなの若旦那やなんか……」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
京橋具足町の金物屋かなものや、和泉屋の店さき。間口の広い大店おおだなにて、店さきの土間にも店の左右の地面にも、金物類が沢山に積んである。上のかたには土蔵の白壁がみえて、鉄の大きい天水桶もある。
勘平の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
金之丞さんも身内には相違ありませんが、縁が遠くなりますし、それに、あの通り弱い方で、大店おおだなを切り廻す方じゃございません。
娘に、油町の辻新つじしんという大店おおだな権助ごんすけを養子にして舂米屋つきごめやをさせ、自分たちは二階住居をしていた。
老舗しにせ骨董屋こっとうやとか武家、大店おおだななどに限り、安い仕事はいっさい断わるというふうであった。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
まるで彼は、いながらにして江戸中の大店おおだなの資本を、五本の指で動かしているといっていい。それほど売れている男なのだ。金の流れの裏に巣くっている、蜘蛛くものような存在である。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
この人は一切の主権を握る相続者ではないとのことであったが、しかし堅気な大店おおだなの主人らしく見えた。でっぷり肥った番頭もかたわらへ来た。池のこいの塩焼で、主人は私達に酒を勧めた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)