べい)” の例文
それは倒れ残った火除ひよべいや、きたならしく欠け崩れた石垣などと共に焼け跡のありさまをかえってすさまじくかなしくみせるようだ。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
同じ屋敷のそとでは、蘭子の恋人神谷芳雄が、ガラスのかけらを植えつけたコンクリートべいのまわりをグルグルとまわり歩いていた。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
びたトタンべいのほうに寄せて並べられてある無縁らしい古い墓石を一つ一つゆっくり見てゆきながら、とうとうその墓地から立ちでた。
花を持てる女 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そしてそのまま、見返りお綱、つばくろの飛ぶかとばかり逸早いちはやく走って、あッと思うまに、宏壮な屋敷べいの角を曲って、ヒラリと姿を隠しかけた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は次郎と二人ふたりでその新しい歩道を踏んで、鮨屋すしやの店の前あたりからある病院のトタンべいに添うて歩いて行った。植木坂は勾配こうばいの急な、狭い坂だ。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「その三軒の長屋の前は、御存じの質屋の黒板べいで、路地の外には町木戸と自身番があつて、番太が草鞋わらぢを作り乍ら、一日の半分は居眠りして居る」
高き混凝土コンクリートべいめぐらしたる同校構内に校外の少女を同伴し来るが如きは可能性の少ない一片の想像に過ぎず。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
四年ほど前津和野つわのを訪ねたことがある。なまこべいの武士屋敷が両側にならんでいる。古格をこれだけよく保った町も珍しい。私はまた美しいこの通りを見たいと思った。
雲石紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
くろぬりべいおもてかまへとお勝手かつてむきの經濟けいざいべつものぞかし、をしはかりにひとうへうらやまぬものよ、香月左門かうづきさもんといひし舊幕臣きうばくしん學士がくし父親ちヽおやとは𧘕𧘔かみしもかたをならべしあいだなるが
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
女は狭い路次ろじを入った。哲郎は暗い処で転ばないようにと脚下あしもとに注意しいしい往った。左の方はトタンべいになって、右側に二階建の長屋らしい家の入口が二つ三つ見えた。
青い紐 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
電線なんてものは皆ねずみ色かくろ色で、どうびた色とあまりちがわない。こうした眼に立たない色だから、つい気がつかないで電線を握っちまったり、トタンべい帯電たいでんさせたりするのだ。
電気看板の神経 (新字新仮名) / 海野十三(著)
濃い影を地面におとして、お高の乗った駕籠は、上水とお槍組やりぐみのなまこべいのあいだを、水戸みと様のお屋敷のほうへくだって行った。磯五が、顔を光らせて、駕籠のそばにぶらぶらついて行った。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
いつのまにか、屋敷町になって、両がわに長いコンクリートべいが、つづいていました。少年たちは、からだをかくすものが何もありません。
透明怪人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
仕切りべいをまわした坪庭つぼにわには、高さ一丈ばかりのまきの木が五本あって、庭の白く乾いたぎらぎらする裸の土の上へ、染めたように黒く影をおとしていた。
有合せの庭下駄を突つかけて、泉石の數寄すきこらした庭に降りて行くと、突き當りは深い植込みがあつて、それをグルリと拔けると、不淨ふじやう門が嚴重に黒板べいに切つてあります。
黒いトタンべいの割れ目から大小さまざまな墓石を通行人の目に触れるがままに任せて。……
花を持てる女 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
いたちのような鋭さをして、今朝、塀裏町へいうらまち横丁よこちょうを出てきた手先のがん八は、ツンのめるようなかっこうで、牢屋べいの下草へたんつばを吐きかけながら、そそくさと、代官屋敷のほうへ急いで行った。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
降り立った二人の前に、広い石畳いしだたみと、御影石みかげいしの門柱と、締め切ったかし模様の鉄扉と、打続くコンクリートべいがあった。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
お豊の家は、黒板べいをまわした二階造りで、狭い庭から(塀の上へ)百日紅さるすべりと赤松が枝を伸ばしている。一中節の稽古所というより、誰かの隠宅か、囲い者の住居という感じだった。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そして、さしかかったのが、中央区内の、とある小公園の塀外へいそとでした。右がわは公園のコンクリートべい、左がわはすぐ川に面している、さびしい場所です。
少年探偵団 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そのあたりは、ひろい屋敷ばかりがならんでいる町で、両がわには、いけがきや、コンクリートべいが、どこまでもつづいていて、人通りは、まるでありません。
宇宙怪人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
四メートルぐらいもありそうな、高い高いコンクリートべいが、ズーッと、目もはるかにつづいています。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
両がわには大きな邸宅のコンクリートべいや、板塀や、こんもりした、いけがきなどが、つづいています。まだ日がくれたばかりなのに、人通りは、まったくありません。
怪奇四十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
賊はそれらの建物の高い生垣いけがきやコンクリートべいの間を縫って、あるいは右に或は左に、クルクルと逃げ廻ったが、どう間違ったのか、塀と塀とで出来た袋小路へ駈け込んでしまった。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その方角に、淡谷邸の高いコンクリートべいがあり、その外は、道路になっています。
塔上の奇術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
云い争っている内に車はいつか玉村邸の長いコンクリートべいに添って走っていた。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
屋敷を取りかこんだ高いコンクリートべいには、ドキドキと鋭いガラスの破片が、ビッシリと植えつけてあるし、見上げるばかりの御影石みかげいしの門柱には、定紋じょうもんを浮彫りにした鉄板の門扉もんぴ
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ながいコンクリートべいばかりつづいた、人通りのない町です。
電人M (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)