)” の例文
ここに於て佐志木作右衛門は、千束島の山善左衛門等とはかったが、結局ながら藩兵に攻められるより兵を挙ぐるにかずとなった。
島原の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それを京都の外一歩も踏み出さぬ公卿くげたちが、歌人はながらに名所を知るなどと称して、名所の歌を詠むに至りては乱暴もまた極まれり。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
いま彼は、ここにながらも、六万の兵は優にうごかすことができる。しかもなおすぐそこの国境を突破して備中へ入ることをひかえていた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今幕府への嫌忌けんきと見えて杉蔵らが獄さえ免ぜず、遊学生も容易には出さず、ながら事機を失う、残念なり。せめては中策にてもだせかし。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
「お前がそのように言わんすのももっともじゃ。もっともじゃが、わたしはわたしでまだ言うことがある。まあまあ下にてくださんせいなあ」
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
今度は前と反対に、足音がだんだん遠くの方へ去るに従って、かすかになった。そうして一番しまいにぴたりとどこかで留まった。宗助はながら、はっとした。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
姫は、立ってもても居られぬ、焦躁しょうそうもだえた。併し日は、益々暗くなり、夕暮れに次いで、夜が来た。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
「今少しく兵を起したでは敵を滅ぼすことは出来ない。さりとて多く兵を動かせばこれ百姓の害である。なるべく兵刃へいじんちぬらずして、ながらにして目的を達したい」
階上にはベランダを廻らした二室があって、その一は父の書斎、一つは寝室であるが、そのいずれからもながらにして、海のような黄浦江こうほこうの両岸が一目に見渡される。
十九の秋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
おのおの名にそぐえる姿、鼓の緒の欄干に、あるいは立ち、あるいはて、手に手に五色ごしきの絹糸を巻きたる糸枠に、金色きんしょく銀色の細きさおを通し、糸を松杉の高き梢をくぐらして、つりの姿す。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ほとんと小紋染こもんぞめのごとくで山も川も見えなかったことと思うが、それでも新しい高低図などと比照してながらにして地形を推測するのに、どれくらい便利であったか知れぬのである。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
己れの疵瑕しかを感ずるに余りに鋭敏な作者は、丁度神経過敏家がの毛で突いたほどの負傷でも血を見ると直ぐ気絶するように、自分の作が意に満たないとてもってもいられなかったらしい。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
てもってもられないようにかんぜられるのでございました。
ながらに後醍醐は、本土のたいがいなことは、ここで観ておられた。出雲の守護塩冶判官は、たよりにもしておられないお口ぶりなのである。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
謎の女が苦しまぎれの屈託顔に六畳敷を出たのは、焦慮じれったいがこうじて、布団の上にたたまれないからである。出て見ると春の日は存外長閑のどかで、平気にびんなぶる温風はいやに人を馬鹿にする。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
我々の地方文化はその刺戟しげきを受けて、ながらにして変り改まり、またみずから展開する力を養い得たことは、この頃になってだんだんと、是を証明する実例が指示せられることになった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
境はつもるも知らず息を詰めたのである。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大四明峰だいしめいのみねの南嶺に高くくらいしているので、東塔西塔はいうまでもなく、横川よかわ飯室いいむろの谷々もながらに見える。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「野中さん提唱ていしょうです」と誘ってくれると、宗助は心から嬉しい気がした。彼は禿頭はげあたまつらまえるような手の着けどころのない難題に悩まされて、ながらじっと煩悶はんもんするのを、いかにも切なく思った。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
屋根のおおいもなく、両側の腰も浅く、革紐かわひもを十文字あやに懸けて、わずかに身を支える程度にとどめ、輿上よじょうながら、大剣をふるって敵と戦闘するに便ならしめてある。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうかといって、この情熱をき尽すほどのはげしい活動には無論出会わなかった。彼の血は高い脈を打って、いたずらにむずがゆく彼の身体の中を流れた。彼は腕組をして、ながら四方の山を眺めた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これらの報告を綜合して、秀吉はその半日のうちに、ほぼ勝家のうごきをながらに知った。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
虚空こくう軍鼓ぐんこと地の波濤を、ながら呼ぶような彼の作戦構想は、例によってすこぶる大きい。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ながらにして、社会の裏まで、人類の千年先までを見とおしているような、こわい光にも見えるし、ふとまた、そこらにいる赤子にでも慕われそうな、やさしいまなざしに、思われる時もある。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここの座敷は、月のみさきの高台にあるので、芝の浜から品川の海は元より、上総沖かずさおきから湧きあがる雲の峰ともながらにむかい合っていた。——その雲の峰の影も、品川の海の色も、剣の中に溶けていた。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ながらでなく寝ながらにして世の人心まで映ってくる。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)