むしば)” の例文
象はガリガリ戸棚のなかで暴れた。(ガリガリガリと云ふ音は、その頃正三のむしば歯を切り取った厭な機械の音に似てゐた。)
恐怖教育 (新字旧仮名) / 原民喜(著)
そういう「近代」が、——生活の生地が——名人六代目菊五郎をさえむしばんでいないとは云えないと思います。
役者の顔 (新字新仮名) / 木村荘八(著)
凡太は次々に起る不愉快な出来事にむしばまれて自棄まぢりの重苦しさを負担してゐたから、東京にゐて憂鬱の尾を噛みしめるよりはまだしもましであらうと考へ
黒谷村 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
何処かむしばんだうずくろさはあってもまだまだ秀麗だった麻川氏が、今は額が細長く丸く禿げ上り、老婆のようにしわんだほおこわばらせた、奇貌きぼうを浮かして、それでも服装だけは昔のままの身だしなみで
鶴は病みき (新字新仮名) / 岡本かの子(著)