鮮明はっき)” の例文
その時、楠の木の幹の面へ朦朧もうろうと人影が浮かび出たが、だんだんその影が濃くなって来る。やがて鮮明はっきり鬼王丸の姿が楠の木を背後うしろにして現われ出た。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
不思議のことには暗夜であるのに四辺あたりの闇とは関係なく女の姿ばかり鮮明はっきりと暗さに浮かんでいるのであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
寝台の下に古靴が——凶行の現場から此室まで鮮明はっきりした足跡をつけたところの老人の古靴——証拠品が、動きの取れない証拠品が、二足揃って隠してあった。
死の航海 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ボーンと、一つ鮮明はっきりと最初の鐘が鳴らされた。続いて二つ目の鐘の音が殷々いんいんとして響いて来た。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
凄く笑ったか笑わないか、おりから悪い雪空で、そこまでは鮮明はっきり解らない。
三甚内 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「もうお前様のお心にはわしが事などござりますまいが、わしが心にはお前様の事がいまだに鮮明はっきり残っています……忘れもしない十年前の、しかも初夏はつなつの真昼頃じゃ、お前様と俺とはこの木蔭で……」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)