鉗鎚けんつい)” の例文
この横着さは、彼がまだ元服前から、なんのかんのと、折々に禅でいためつけられて来た那須の雲巌寺の客僧、疎石禅師の鉗鎚けんついのおかげといえぬこともない。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
植村は中年で僧侶になったもの故、殊に目をかけて、我慢の角を矯め、且つ他時異日たじいじつの発展を期せんとて、痛く鉗鎚けんついを加えられたものと見える。それでこの長歎息ちょうたんそくがあったわけだ。
釈宗演師を語る (新字新仮名) / 鈴木大拙(著)
それを悟らしめるために慈悲の鉗鎚けんついを加えた先師が、その死にかかわらず今もなお生きて自己の内にはたらくことを自覚すれば、死にして生という死復活の真実が実証せられるわけである。
メメント モリ (新字新仮名) / 田辺元(著)
尊氏は救われざる愚昧ぐまいな弟子の身を、陣中で、師のに詫びたことであろう。あんなにも師の鉗鎚けんついにたたかれてきた禅。毛穴の一つにもそれが体悟たいごされていただろうか。恥かしい。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)