部落むら)” の例文
夢中で走りながら、熊吉は、日頃から父親が部落むらから外の子供たちとは決して遊ぶでねえぞ、といつてゐたのを憶ひ出した。——
黎明 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)
それに蜂蜜なら、請合つて、そんじよそこいらの部落むらでは金輪際、見つかりつこない飛びきり上等の蜜を進ぜますて。
前には榊や椿や山黄楊いぬつげなどが植えられてあった。鳥より他には声を立てるもののないような、その寂寥ひっそりとした森の中から、祠は一目に農耕の部落むら俯瞰ふかんしていた。
或る部落の五つの話 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
家ひとつない昔の部落むらあとにも、言いようのない懐しさを抱いておりますが、行ってみたところで、その淋しさに胸を打たれるに相違ない、と今はまだ、とても帰ってみる気にはなれませぬ。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あの井戸は、部落むらの衆のためには、これまでずゐぶん、役立つて來とるんぢやけに。ぢやが……
生活の探求 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)
部落むらに移り住んで開業して以来、極めて流行はやらなかった湯沢医者は、最も科学的な自分の職業を捨てて、最も非科学的な女房の職業の下に寄食することになったのだった。
或る部落の五つの話 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
さうすれば、⦅あすこだよ⦆と言つて、その小僧つ児が指をさしてすぐにお教へするでせう。もしお望みとあれば当のこの部落むらまで、先きに立つて御案内することでせう。
時にどうして部落むらの連中がこのわたしに⦅赤毛の旦那ルードゥイ・パニコー⦆などといふ渾名をつけたものか——頓とどうも合点がいかん。わたしは、髪の毛だつて今では赤毛どころか白髪の筈ぢや。
「うむ。部落むらのためにゃあ、あの爺なんか、打殺ぶちころして了めえばいいんだ。」
黒い地帯 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
部落むらの後ろへずっとひろがって、末は野原につづいている古い広大な園は樹木の生い茂るがままに荒れ果ててはいるが、どうやら、そのだだっぴろい村に生気を添えている唯一のものらしく
部落むらの中央部に小高い台地の部分があった。
都会地図の膨脹 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)