浪人原口作左衛門を、禁断の鍼で殺したという家人のうったえで、按摩佐の市は、時の南町奉行、遠山左衛門尉とおやまさえもんのじょう直々じきじき取調とりしらべを受けて居ります。
禁断の死針 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
種彦は先刻から遠山左衛門尉とおやまさえもんのじょうが事をばいかほど思うまいとつとめて見てもどうしても思返さずにはいられなかったのである。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
下情に通暁せんにはその眼光水戸黄門の如くなるにあらざれば、その経歴遠山左衛門尉とおやまさえもんのじょうに比すべきものなくんばあるべからず。ここにおいてや通俗小説の述作あにそれ容易のわざならんや。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
大岡越前守おおおかえちぜんのかみとか、遠山左衛門尉とおやまさえもんのじょうとかいう、後世までも聞えた名奉行はともかく、大抵のお白洲しらすでは、筋書通りそれを繰り返して口書拇印くちがきぼいんを取り、最後の言い渡しをするだけであったのです。