賀正事ヨゴト)” の例文
荒魂・和魂の対立は、天子及び、賀正事ヨゴトを奏する資格を持つ邑君の後身なる氏々の長上者にも見られる。
中臣寿詞以外、氏々の賀正事ヨゴト——誄詞シヌビゴトも同じ物で、其用途によつて別名をつけたまでゞある。
奈良朝以前は、各氏上——恐らくは氏々の神の神主の資格に於て——が、天子に「賀正事ヨゴト」を奏上することになつてゐた。賀正事ヨゴトは意義から出た宛て字で、壽詞ヨゴトと同じである。
古代に於ける呪言ヨゴトは、必、其對象たる神・精靈の存在を豫定して居たものである。賀正事ヨゴトに影響せられる者は、天子の身體といふよりも、生き御靈であつたと見るのが適當である。
古い程、すべての氏々の賀正事ヨゴトを奏したのであらうが、後は漸く代表として一氏或は數氏から出るに止めた樣である。此も家長に對する家人としての禮を以て、天子に對したのである。
賀正事ヨゴトの非公式になつたもので、兼ねて「の祝言」の元とも言ふべき宮廷の新年行事である。ものの意義は、内容が可なり広く用ゐられてゐる。年中の運勢など言ふ風にも感じられる。
国文学の発生(第二稿) (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
年頭の朝賀の式は、段々、氏々の代表者の賀正事ヨゴト(天子の寿を賀する詞)奏上を重く見る様になつたが、恒例の大事の詔旨は、此受朝の際に行はれた。賀正事ヨゴトは、詔旨に対する覆奏カヘリマヲシなのであつた。
極めて古い時代には、朝賀の賀正事ヨゴトには専ら此を奏上して、神界に君臣の分限が明らかだつた事始めを説いて、其時の如く今も忠勤を抽んでゝ天子に仕へ、其健康を保障しようとする事を誓うた。
寿詞を受けた者の内部から発するはずの声を、てつとり早く外側から言ふ形であらう。謂はゞ天子の受けられる賀正事ヨゴトに、天子の内側の声が答へると言ふ形式があつたものとすれば、よく訣る事だ。
国文学の発生(第二稿) (新字旧仮名) / 折口信夫(著)