記憶おもいで)” の例文
お隅は顔を外向そむけて、嗚咽すすりあげました。一旦なおりかかった胸の傷口が復た破れて、烈しく出血するとはこの思いです。残酷な一生の記憶おもいでは蛇のように蘇生いきかえりました。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
刈取らずに置いた蕎麦の素枯すがれに月の光の沈んだ有様を見ると、楽しい記憶おもいでが母親の胸の中を往ったり来たりせずにはおりません。母親は夢のようにながめて幾度か深い歎息ためいきを吐きました。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)