覉旅きりょ)” の例文
これは、柿本朝臣人麻呂覉旅きりょ歌八首という中の一つである。覉旅八首は、純粋の意味の連作でなく、西へ行く趣の歌もあり、東へ帰る趣の歌もある。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
わたくしはこの年から五、六年、はからずも覉旅きりょの人となったが、明治四十一年の秋、重ねて来り見るに及んで、うた前度ぜんど劉郎りゅうろうたる思いをなさねばならなかった。
里の今昔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この一首で、「悲しく思ほゆ」の句が心をく。当時の覉旅きりょの実際からこの句が来たからであろう。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
家がなければ平生へいぜい詩作の参考に供すべき書巻を持っていよう筈がない。さびしき二人の作品は座右の書物から興会を得たものではなく、直接道途の観察と覉旅きりょの哀愁から得たものである。
冬日の窓 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
吾等の常識では「草枕旅にしあれば」などと、普通覉旅きりょの不自由を歌っているような内容でありながら、そういうものと違って感ぜねばならぬものを此歌は持っているのはどうしてか。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)