石膏像せっこうぞう)” の例文
まず、片手の石膏像せっこうぞう。これは、ヴィナスの右手。ダリヤの花にも似た片手、まっしろい片手、それがただ台上に載っているのだ。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
彼らは石膏像せっこうぞうのような硬い仮面をふり向けてわずかにその濁った眼を動かす、なんという気味悪い顔であろう、説明しようのない罪悪の匂いが見る者を強くうつ
蛮人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
引き上げてみると、それは外ならぬ赤沢博士の屍体だった。全身は真白に氷結し、まるで石膏像せっこうぞうのようであったが、その顔には恐怖の色がアリアリと見えていた。
人間灰 (新字新仮名) / 海野十三(著)
自分はうしろから小さな石膏像せっこうぞうの飛んでくるぐらいに恐れを抱く人間ではなかった。けれどもあの時に限って、怒るべき勇気の源がすでに枯れていたような気がする。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
気取りやで、話し上手で、大げさにほほえみ、大げさに身振りをした。「国の首領」の石膏像せっこうぞうや肖像を往来で売るのを商売にしていた。それからまた歯抜きもやった。
そして欄にもたれてひざまずいてじっとしている。美しい肩が時々波を打って、帽子の黒い鳥の羽がふるえるように見えました。マドンナのすぐわきにジャンダークの石膏像せっこうぞうがある。
先生への通信 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)