真黒まっくら)” の例文
真黒まっくらな中に雨がしとしとと降っていた。平太郎は簑笠を着け、草鞋を穿いて大熊山の方へ向ったが、覆面させられたようで何も見えない。
魔王物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
夜中やちゅう真黒まっくらな中に坐禅ということをしていたのか、坐りながら眠っていたのか、眠りながら坐っていたのか、今夜だけ偶然にこういうていであったのか、始終こうなのか、とあやしまどうた。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
戸外そと真黒まっくらで星の光さえなかった。皆黙々として寄り添うて歩いていたが、皆の眼は云いあわしたように庭前の竹にかけた蛇の皮の方へ往った。
蛇怨 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
江戸川縁の住居は真黒まっくらであった。侍は女を戸口に立たして置いて、手探りに戸を開けて内へ入り、行灯あんどんの灯を点けると女を呼び入れた。そして、二人はその行灯の前に向き合って坐った。
花の咲く比 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)