泌々しみじみ)” の例文
例の如く若干首を傾けて貴族の如く一礼をなし、さて、ふるへを帯びた細い声で感動のために澱みながら、泌々しみじみと挨拶の言葉をのべた。
盗まれた手紙の話 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
彼は寝ながら長屋を出る棺桶に敬意を払い、世界に大きな隙があることを泌々しみじみと考えたのであった。
空中征服 (新字新仮名) / 賀川豊彦(著)
なるほど、日本といふ国は変な国なんだなアと、僕はこの和歌を読み、泌々しみじみ嘆息を覚えた。日本人が奇妙不思議な国民なのだ。
五月の詩 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
その想念は泌々しみじみ美しいものだつた。さうして自分の思ひつきを人々に語つてみた。果してそこに葛子の死体が浮いてゐた。
木々の精、谷の精 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
それはたゞ泌々しみじみと、一人娘の家出のあとの風景なのである。微塵も人に見せるための芝居ではなく、一人娘の家出の暗さが歴々漂ふ風景であつた。
孤独閑談 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
決して鼻唄のうちに済んでしまふほど単純無邪気なものではないことが泌々しみじみ分らせられたのだ。
死と鼻唄 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
風流三昧が、何より性に合つてゐたのだ……すでに、伝蔵は、泌々しみじみとかう考へることがあつた。
波子 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
内にあふるるやうな肉感を蔵してゐてもなんとも可憐でたうてい手なぞはつけられないのだと妙に泌々しみじみ言ひだしたり、そんなことを言つてるうちに自分の感傷にひきづられた形で
雨宮紅庵 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
馬吉には、これが泌々しみじみ有難かったのである。
退歩主義者 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)