嗚咽すゝりなき)” の例文
あゝ——お志保だ——お志保の嗚咽すゝりなきだ——斯う思ひ附くと同時に、言ふに言はれぬ恐怖おそれ哀憐あはれみとが身をおそふやうに感ぜられる。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
翌日かれ等三人がその湯元に行つた時には、あたりは晴れて、かゞやかしい日影がさし込んで来てゐた。緑葉の葉裏は風に光つて、谷の底では水の音が嗚咽すゝりなきのやうにかすかに鳴つてゐた。
父親 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
朝空を望むやうな新しい生涯に入る迄——熱心な男性をとこ嗚咽すゝりなきが声を聞くやうに書きあらはしてあつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)