起上たちあが)” の例文
不意に起上たちあがって入口の方へ歩いて行く東野南次、その憑かれたような姿を見ながら、母親の礼子には止めるすべもありませんでした。
湯村は蒼い顔して起上たちあがつた。そして、三畳に出て行つてそこの襖を開けると、寝転んで居た妹は飛んで起きて、窮屈さうに坐つた。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
ト言ったのが文三への挨拶で、昇はそのまま起上たちあがッて二階を降りて往った。跡を目送みおくりながら文三が、さもさも苦々しそうに口のうち
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
枕もとに松籟しょうらいをきいて、しばらく理窟も学問もなくなった。が、ふと、昼飯ひるぜんに、一銚子ひとちょうし添えさせるのを言忘れたのに心づいて、そこで起上たちあがった。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はらすいると、のばしてとゞところなつ無花果いちじく芭蕉ばせうもぎつてふ、若し起上たちあがつてもぎらなければならぬなら飢餓うゑしんだかも知れないが
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
博士は「クンカン?」といつて、一寸小首をかしげたが、そのまゝ起上たちあがつて書棚から新版の辞書を引下ひきおろして来た。
たすき鉢巻はちまき股立ももだち取って、満身に力瘤ちからこぶを入れつつ起上たちあがって、右からも左からも打込むすきがない身構えをしてから、えいやッと気合きあいを掛けて打込む命掛けの勝負であった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
紫紺塩瀬しほぜ消金けしきん口金くちがね打ちたる手鞄てかばんを取直して、婦人はやをら起上たちあがりつ。迷惑は貫一がおもてあらはれたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
斯の光景ありさまを見兼ねて、お節は縫ひかけた自分の着物もそこそこに起上たちあがつた。今度は文ちやんはお節の方へ向つて来た。顔を真紅にして、怒つたやうな首筋まで顕して。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
この時、背後うしろの方から不意に物の気息けはいが聞えて、何者か忍び寄るようにも思われたので、市郎は手早く蝋燭をって起上たちあがると、余りに慌てたので、彼は父の死骸につまずいた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ならんでつて望生ぼうせい膝頭ひざかしらどろうまつてるのを、狹衣子さごろもし完全くわんぜん土器どき間違まちがへて掘出ほりださうとすると、ピヨイと望生ぼうせい起上たちあがつたので、土器どき羽根はねえたかとおどろいたのも其頃そのごろ
それから三日ばかりした真夜中から、波濤なみの音が急に違って来たので眼がめた。アラスカ沿岸を洗う暖流に乗り込んだのだ……と思ったのでホッとして万年寝床ベッドの中に起上たちあがった。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と云っている内におくのは絶命こときれましたから、茂之助は只呆然ぼんやりして暫く考えて居ましたが、ふら/\ッと起上たちあがって、自分の帯を解いてへっついかどから釜の蓋へ足を掛けて、はりへ二つ三つ巻きつけ
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それでいて彼女は坐っているのに、相手は明かに起上たちあがっているのだった。つまり、男はいつの間にか、異常に脊の低い畸形児に変ってしまったのだった。彼女は一瞬間にすべての事情を悟った。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
目科はと厳格に「はい警察署から送られました、わたくしは其筋の探偵です」と答う探偵との返事を聞き倉子は絶望せし人のごとく元の椅子に沈み込み殆ど泣声なみだごえを洩さんとせしも、思直おもいなおしてか又起上たちあが
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
Bは急いで起上たちあがつた。そしてそつちへ二三歩近寄つた。
時子 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
「雪は止んでいるか知らん。」と母はいって起上たちあがった。
北の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
お勢がまず起上たちあがッて坐舗ざしきを出て、縁側でお鍋にたわぶれて高笑をしたかと思う間も無く、たちまち部屋の方で低声ていせいに詩吟をする声が聞えた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
井上半十郎思わず起上たちあがりましたが、雁字がらめに縛り上げられた上、自分の造った砲架にくくられては、この謀反人を眼前に見乍ら、どうすることも出来ません。
江戸の火術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「それではこれで失礼します。」と自分は起上たちあがった、すると彼は狼狽あわてて自分を引止め、「ま、ま、貴様怒ったのですか。し僕の言った事がお気に触ったら御勘弁を願います。 ...
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「何をあんなに吠えるのだろう。」と、手持無沙汰てもちぶさたの市郎は、これしお起上たちあがってかどへ出た。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
鰤の半身かたみも、持って来た丼もそのままに起上たちあがって、棕梠箒の荷を担いで逃げて行く奴を、追い縋った相棒が引ずり倒してポカポカと殴り付けた。商売物の箒が泥ダラケになってしまった。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「まあ、待てよ」と起上たちあがって、戸棚とだなの中から新しい菓子の入ったかんを取出した。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
明智はいいながら、もう起上たちあがっていた。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と、口小言を言い言い、母も渋々起きて、雪洞ぼんぼりけて起上たちあがったから、私も其後そのあといて、玄関——と云ってもツイ次の間だが、玄関へ出た。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
男は口早に、身軽に起上たちあがって、衣兜かくしから新しい手拭をって頬包ほおかむりした。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
スックと起上たちあがったお豊、三右衛門以下の止める間もありません。
礫心中 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
跡で文三はしばらくの間また腕をんで黙想していたが、フト何か憶出おもいだしたような面相かおつきをして、起上たちあがッて羽織だけを着替えて、帽子を片手に二階を降りた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ふと雪江さんの座蒲団が眼にる……之れを見ると、何だか捜していた物が看附みつかったような気がして、卒然いきなり引浚ひっさらって、急いで起上たちあがって雪江さんの跡を追った。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
本当ほんとにお眠いのにお邪魔ですわねえ。どれ、もう行って寐ましょう。お休みなさいまし」と、会釈して起上たちあがった様子で、「灯火あかりを消してきますよ」という声と共に、ふッと火を吹く息の音がした。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)