えら)” の例文
「少さなやくざもの」の兄は肺病で斃れるまで、弟をえらい作家にしやうとして、有らゆる犠牲を払つた。そして終に死んでしまつた。
(新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
ハイカラな新式な美しい女門下生が、先生! 先生! と世にもえらい人のように渇仰して来るのに胸を動かさずに誰がおられようか。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「あっ、そうか。いや、早いものじゃ。燻製の効果が、こうも早く出てくるとは思わなかった。いや偉大なものじゃ、えらいものじゃ」
「あんたや水町さんは訳が分っていますけれど、我々文化人はなんて言って、自分達ばかりえらいつもりでいる人もあるんですから」
田園情調あり (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
桂は顔を挙げて小供こどもに解りやすいようにこの大発明家のことを話して聞かし、「坊様も大きくなったらこんなえらい人におなりなさいよ」
非凡なる凡人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
何じゃ騒しいな。ふ、ふ、あ、あ、それは結構。何さ、しかし心配には及ばぬよ。殺されたものは損、照子殿はえらてがらじゃ、妖物ばけもの
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あなたは、それだから困るのね。どうせ、あんな、えらかたになれば、すぐ、おいそれと書いて下さる事はないでしょうから……」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今学校のある丘の上には、長鍬の長者と云ふ田が千町、畑が千町、山が千町合せて三千町の土地を持つたえらい長者が住んでをつたのぢや。
黄金の甕 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
貴樣達きさまたちはあのとき中根なかね行爲かうゐわらつたかもれん。しかし、中根なかねまさしく軍人ぐんじんの、歩兵ほへい本分ほんぶんまもつたものだ。えらい、えらい‥‥」
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
旦那それじゃア此の金をわっちにくれますかえ、えらいなア、どうも驚いた、わっちにくんでったのだから、大抵の者ならくれた処が五両か七両
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
一種の軽蔑けいべつ的なえらがりからやはりつづけて足を運んだ。クリストフの室にはいっても、不安ではあったがなんとも言わなかった。
又雑婚が盛んになって総ての犬が尽く合の子のカメ犬となって了ったように、純粋日本人の血が亡びて了うと悲観したえらい学者さえあった。
自分独りでえらくなったように思って、ほしいままに羽根を伸したり、新手を編み出したりする者があれば、それは能楽界の外道である。
能とは何か (新字新仮名) / 夢野久作(著)
晋安王来りしも進む能わず、聡手を以て頭をおさえ地にけその両目を閉ざしめ、王を召し展礼せしむとはなかなかえらい坊主だ。
「いやはや。君はえらい心理学者だよ。しかしそんなけれんは外の病人に遣って見せたまえ。そんなあさはかな手には、僕は乗らないからね。」
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
「何だエ」と伯母は眼をまるくし「其様そんなえら婦人ひとで、其様そんなとしになるまで、一度もお嫁にならんのかよ——異人てものは妙なことするものだの」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
何も彼もが師匠はえらいという気がしてる弟子の目には、師匠の行住座臥すべてが憧れの的であるのは当然だと思います。絵は勿論のことです。
植田丹後守様とて受領ずりょうまである歴々の御社家、あの御主人はなかなかえらいお方で、奥様も親切なお方、あのお邸へお願い申しておけば大盤石だいばんじゃく
つまり、よく五十年も我慢した、両方ともえらい! というんで、国家的勇士としての栄誉と待遇をあたえるわけなんだろう。
踊る地平線:05 白夜幻想曲 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
わたしの知り合いにも一人あそこにいるものもおりますが、シンガポールの英人のえらさには、なかなか感心しておりました。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
するとほか小猿こざるが「おれの父様ちやんはもつとえらいや、おにしま征伐せいばつにいつたんだもの」「うそだあ、ありやむかしことぢやないか」
然しそれは、酒をくらひ、博奕をうち、喧嘩をするから畏れるといふのではなく、其時の私には、世の中で源作叔父程えらい人がない様に思はれたのだ。
刑余の叔父 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
えらい奴だ」と大勢が叫ぶ。競馬好に極まつてゐる、長年馬盗坊うまどろばうをして来た、この男達は馬の蹄で地を踏む拍子を真似て、平手で腰をはたいてゐる。
えらいから女ができないんだといつもこぼしてる。ところがわれわれは皆多少なりと情婦を持っている。だからばかになる、言い換えれば勇敢になる。
しかし仕事がえらいから割増をしてこれだけるのだ。その上にもまた酒代が欲しいのか。酒代は遣らぬとはいわない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
彼等は口先ばかりでえらそうなことを言って、その生活はむしろその言うところの反対を行っているのが少なくない。
誰が云うのか、彼女には豊かな霊能があるから、それを磨けば何でも見透せるようなえらい者になる。とおだてられ、せっせと心霊研究とやらを始めた。
魔性の女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
先生を訪問して、殆ど何も話すことができないで帰ってくる学生にしても、決して窮屈を感じたのではない。そんなところに先生のえらさがあると思う。
西田先生のことども (新字新仮名) / 三木清(著)
悠々として天命を楽むのは実にえらい。例えば「死」なる問題は、今の所到底理論の解決以外だ。が、解決が出来たとした所で、死は矢張やっぱ可厭いやだろう。
予が半生の懺悔 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「占いで幽霊の処置はできん。の新幡随院の和尚おしょうはなかなかえらい人で、わしも心やすいから、手紙をつけてやる、和尚の処へ往って頼んでみるがいい」
円朝の牡丹灯籠 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
えらいもんになつて、今まで私たちをバカにした人をうんと見返してやればいゝわ、ねえ兄さん、さうすればいゝぢやないの? 兄さんはさう思はないの?
父の帰宅 (新字旧仮名) / 小寺菊子(著)
「えゝ。」負け惜しみに、やつぱり躊躇ちゅうちょもなく私はかう答へる。それに、あの人がえらくならうと、なるまいと、それが私に取つてたゞ一つの問題ではない。
脱殻 (新字旧仮名) / 水野仙子(著)
で私もキリストの友誼よりえらいことは言わぬつもり、否皆さんがとうに知ってることをいってみたいと思う。
イエスキリストの友誼 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
それはいうまでもなくそんな事を考えたのは、一葉女史の在世中の私ではない、その折はあまり私の心が子供すぎて、ただえらいと思っていたに過ぎなかった。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
女が何で独り弱者でしょう。男も随分弱者です。日本では男の乞食こつじきの方が多いことを統計が示しております。男が何で独りえらいでしょう。女は子を産みます。
産屋物語 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
女房思いで気の弱い伊助が、途方に暮れておろおろしているところへ、間もなく、小間物屋亀安の番頭が、頭から湯気を立てて、えら権幕けんまくで乗り込んで来た。
「えッ、それはほんまかいな」玉島は仰天しながら、「友木はん、あんたは貧乏してても、どことなく他の人と違うと思ったが、やっぱりえらい。感心なものや」
罠に掛った人 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
「算盤もいらない。職人が銭勘定するようじゃ駄目だ、彫刻師としてえらくなれば、字でも算盤でも出来る人を使うことも出来る。ただ、一生懸命に彫刻ほりものを勉強しろ」
才物だ。なかなかの才物だとしきりにやし、あの高ぶらぬところがどうもえらい。談話はなしの面白さ。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
私は友達のィ公のととさんは喇叭卒ラッパそつであることを思い出して、喜ィ公のととさんはえらイなあと思った。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
「生縄一家の用心棒、磯貝先生は、話に今ものこっている笹川繁蔵ささがわしげぞうの処の平手酒造ひらてみきよりもえらい方だ」
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
たべるかね、相変らずえらい勢いだ。僕もまだ飯前だから一緒に遣ろう。お登和や、早速ここへお膳を
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「中々えらいえな、女の子よりも上手や、この調子では、今に自分の着物位縫へるやうになるえ。」
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
正直な所、亭主よりえらい女が出来ては困る! と云うのが支配階級とその亜流の心情なのです。
吾人の『万葉』のえらいとするところは要するにその歌が生き生きして居る点にあるが、第一に作者の詩的感懐が高い、材料の観取が非常に広い、言語の駆使が自在である
子規と和歌 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
昔下らない事を云ひ合つてゐたこの友人の頭の中にえらい魂が動いてゐるとは信じられないが、この世の中ではかういふ男が得意な生活をするといふことは疑はれなかつた。
仮面 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
わたしは自分の方からは決して何もしない、とさもえらそうに広言をはきましたが、義姉が帰ったあとで部屋を出ると、子供のおびえたような、みじめな姿が眼に入りました。
君は他人より古い、小さい、弱いと思っては満足できぬ人間なのだから、エミネンシイに対する欲求も無理とはいわない、がそこを忍耐しなくてはえらい哲学者にはなれない。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
『これはいつまでも伯母さんが預かつて置きませう……今にそんな事もあつたかねえと言ふやうな時が必と來ますよ。まあ何でも可いから勉強してえらい者になつて下さいよ。』
反古 (旧字旧仮名) / 小山内薫(著)
堆書狂で名高かったのは、十九世紀初葉のオランダの貴族ウェストリーネン・ヴァン・ティエランドであるが、此男がえらい蔵書家で、且つ蔵書を人に見せたがらない奇人だった。
愛書癖 (新字新仮名) / 辰野隆(著)