衣服なり)” の例文
「ナニ今日はあんなお嬢様然とした風をしているけれども、うちにいる時は疎末そまつ衣服なりで、侍婢こしもとがわりに使われているのです」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そうするとこれを聞いたこなたのきたな衣服なりの少年は、その眼鼻立めはなだちの悪く無い割には無愛想ぶあいそう薄淋うすさみしい顔に、いささか冷笑あざわらうようなわらいを現わした。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
一体衣服なりには少しも頓着しない方で、親譲りの古ぼけた銘仙めいせんにメレンスの兵児帯へこおび何処どこへでも押掛けたのが、俄に美服を新調して着飾り出した。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
丁度お若さんがこのいおりこもる様になった頃より、毎日々々チャンと時間をきめて廻って来る門付かどづけの物貰いがございまして、衣服なりも余り見苦しくはなく
き心の起らぬものとては一個ひとつも無し、藻西太郎の妻倉子は此上も無き衣服なり蕩楽とか聞きたりかゝる町に貧く暮してはさぞかし欲き者のみ多かる可くすれば夫等それらの慾にいざなわれ
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
衣服なりもこっちから云って上げた通りでしたか。黒の中折なかおれに、霜降しもふり外套がいとうを着て」
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
独語ひとりごつところへ、うッそりと来かかる四十ばかりの男、薄汚うすぎたな衣服なり髪垢ふけだらけの頭したるが、裏口からのぞきこみながら、おつつぶれた声でぶ。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
身丈恰好せいかっこうくって、衣服なりが本当で、持物が本筋で、声が美くって、一ちゅうぶしが出来るというのだから女はベタ惚れ
まず最初に容貌かおだちを視て、次に衣服なりを視て、帯を視て爪端つまさきを視て、行過ぎてからズーと後姿うしろつきを一べつして、また帯を視て髪を視て、その跡でチョイとお勢を横目で視て、そして澄ましてしまう。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
敬太郎は年に合わして余りにびる気分を失い過ぎたこの衣服なりを再びうしろから見て、どうしてもすでに男を知った結果だと判じた。その上この女の態度にはどこか大人おとなびた落ちつきがあった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
子供には可憐な衣服なりをさせたりして、親父殿も晩酌の一杯ぐらいは楽んでいられて、ドンドン、ジャンジャン、ソーレ敵軍が押寄せて来たぞ、ひどい目にあわぬ中に早く逃げろ
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
はいお出で……安兵衞さん妹の道具は後から取りに遣します、船が待って居りますからすぐに此の衣服なりで連れて帰ります……雪、伊之さんの処から離縁状が出ましたから直にうちへ帰りましょう、其の衣服でおいで、着物を
悠〻然と鑿を衣服なり垢穢きたなき爺もあり、道具捜しにまごつく小童わつぱ、頻りに木を挽割ひく日傭取り、人さま/″\の骨折り気遣ひ、汗かき息張る其中に、総棟梁ののつそり十兵衞
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
悠々然とのみ衣服なり垢穢きたなじじもあり、道具捜しにまごつく小童わっぱ、しきりに木をく日傭取り、人さまざまの骨折り気遣い、汗かき息張るその中に、総棟梁ののっそり十兵衛
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)