蝮蛇まむし)” の例文
鉄造 そいつが曲者なんでさ、腹の中はどうしてどうして、山の手一帯の土地家屋のブローカー仲間では「蝮蛇まむし」で通る男ですよ。
彦六大いに笑ふ (新字旧仮名) / 三好十郎(著)
「松明仕掛けの睡り薬で参らすんだ。その作り方は、土龍もぐら井守いもり蝮蛇まむしの血に、天鼠、百足むかで、白檀、丁香、水銀郎の細末をまぜて……」
猿飛佐助 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
途中助七は蝮蛇まむしを一疋見つけて、ちょいと頭を叩いて打殺し、杖の先にかけてぽんと川に投げ込んでしまう。無造作なものだ。
黒部川を遡る (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
アコ長が間髪をいれずにお節のほうへ飛んで行って、その足もとを見ると、足の下のくさむらの中に一疋の大きな蝮蛇まむし
顎十郎捕物帳:24 蠑螈 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
あらそふて之をしよくす、探検たんけん勇気ゆうき此に於てさうさうきたる、相謂て曰く前途ぜんと千百の蝮蛇まむし応に皆此の如くなるべしと。
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
しかし何故なにゆえに『蝮蛇まむし』の二大文字もんじを額の上に貼りつけて、ひたすら乞食を引張り出して打殺そうとするのか
頭髪の故事 (新字新仮名) / 魯迅(著)
ミラーノびとを戰ひのにはにみちびく蝮蛇まむしも、ガルルーラの鷄のごとくはかの女の墓を飾らじ。 七九—八一
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
食匙蛇はぶ響尾蛇ラッツルスネーキ蝮蛇まむしの毒あるでもなく、小さい、無害な、臆病な、人を見れば直ぐ逃げる、二つ三つ打てば直ぐ死ぬ、眼のかたきに殺さるゝ云わば気の毒な蛇までも
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
兵書には蝮蛇まむし茯苓ぶくりょう南天なんてんの実、白蝋はくろう、虎の肉などを用い、一丸よく数日のうえを救うと言われている
白百合しろゆりが口を開くとすれば、いかにはとのことを悪口するだろうか。狂信者をそしる盲信者は、蝮蛇まむし青蛇あおへびよりももっと有害な口をきく。僕が無学なのは残念なわけだ。
いかにも、兇暴の相である。とぐろを巻いて、しかも精悍せいかんな、ああ、それは蝮蛇まむしそっくりである。私の眉にさえ、刺されるような熱さを覚えた。火事は、異様の臭気がする。
春の盗賊 (新字新仮名) / 太宰治(著)
殊に蝮蛇まむしは猪の御馳走で暖い時分には蝮蛇ばかり捜して歩くそうです。猪ばかりでありません。蛇を食物とする動物は何でも肉の中に同じような強い刺撃性を持っています。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
それと同時どうじ若者わかものためにはかれ蝮蛇まむし毒牙どくがごときものでなければらぬ。れでありながら威嚴ゐげん勢力せいりよくもないかれすべての若者わかものからかれ苛立いらだたしめる惡戯いたづらもつむくいられた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
わが邦にも魔魅まみ蝮蛇まむし等と眼を見合せばたちまち気を奪われて死すといい(『塵塚物語』三)、インドにも毒竜視るところことごとく破壊す(『毘奈耶雑事』九)など説かれた。
その切り開いた途の両側に、朝起きて見ると、蝮蛇まむしがとぐろを巻いて日光をうろこの上に受けている。それを遠くから棒でおさえておいて、そばへ寄ってち殺して肉を焼いて食うのだと彼は話した。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
車前草しゃぜんそうなどの繁った日当りのよさそうな平に出ると、斯ういう所には蝮蛇まむしが甲良を干しているものだといいながら、犬をけしかけたり杖で草を叩いたりする。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
それはちょうど蝮蛇まむしをアルコールや焼酎しょうちゅうへ漬けて人が飲むのと同じ事で猪の毒質が蛇や蝮蛇より生ずるとすれば猪の肉をブランデーへ漬けるのも自然と配合法が似ております。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
十二月(大正十一年)初め博文館から「イノシシノゲンコハヤクオクレ」と電信あり、何の事か判らず左思右考するに、上総でわらびを念じ、奥州では野猪の歌を唱えて蝮蛇まむしの害を防ぐとか。
と、問うたので、度肝を抜いてくれようと、蝮蛇まむしを食うている旨答えると
猿飛佐助 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
途中とちう大なる蝮蛇まむしの路傍に蜿蜒えん/\たるあり、之をへば忽ち叢中さうちうかくる、警察署の小使某ひとり叢中にり、生擒せいきんして右手にひつさきたる、衆其たくふくす、此に於て河岸に出でて火をき蝮のかわ
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
兵家、仁術家は皆知つて居る筈だ。遠きは義經の兵粮丸、楠氏の兵粮丸、竹中半兵衞の兵粮丸など言ふものがある。兵書には蝮蛇まむし茯苓ふくりやう、南天の實、白蝋はくらふ、虎の肉などを用ひ、一丸よく數日のうゑ
蝮蛇まむしの逃げる音。
まして近頃の研究によれば鰻には激烈なる毒性がある。動物試験の結果鰻の毒質を他の動物の血液中に注射すればたちまち死ぬという事が分った。鰻の毒質は蝮蛇まむしの毒質と類似している。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
日射が強くなって汗が止度とめどなく流れる。先に立った丸山警部補は、路傍に横たわっている蝮蛇まむしを見付けて、一撃の下に撲殺してしまった。此辺は蝮蛇が多いそうであるが、其後は見当らなかった。
今度はいよいよ化け物類の出勤時間、草木も眠る真夜中に、彼ら総出で何とも知れぬ大声でさわぎ立て、獅・豹・熊・牛・蝮蛇まむしさそり・狼の諸形を現じて尊者の身が切れ切れになるまでさいなんだが