膝許ひざもと)” の例文
ふと産婦の握力がゆるんだのを感じて私は顔をげて見た。産婆の膝許ひざもとには血の気のない嬰児えいじが仰向けに横たえられていた。
小さき者へ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
余計な御苦労かけるのが御不便ごふびんさ。決して私は明さんに、在所ありかを知らせず隠れていたのに、つい膝許ひざもとおさないものが、粗相で手毬てまりを流したのが悪縁となりました。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかしどこでもそうだが仙台の人たちは膝許ひざもとのこういう品を別に大事にはしない。段々需要が減って行くのも致し方ない。しかし見直す人が出れば惜しがるであろう。
現在の日本民窯 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
黙って眼を閉じていた歌麿は、そういってにじり寄ったおきたの手のぬくみを膝許ひざもとに感じた。
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
一通ひとゝほりの挨拶あいさつをはつてのち夫人ふじん愛兒あいじさしまねくと、まねかれてをくするいろもなくわたくし膝許ひざもとちかすゝつた少年せうねん年齡としは八さい日出雄ひでをよし清楚さつぱりとした水兵すいへいふう洋服ようふく姿すがたで、かみ房々ふさ/″\とした
筆硯ひっけんを借りてその包紙の余白に、貧病の薬いただく雪あかり、と書きつけて興を添え、酒盃しゅはいの献酬もさかんになり、小判は一まわりして主人の膝許ひざもとにかえった頃に、年長者の山崎はすわり直し
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「さいなあ、阿波あは鳴門なるとをこえて観音様くわんのんさまのお膝許ひざもとへいきやつたといのう」
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
監督は矢部の出迎えに出かけて留守だったが、父の膝許ひざもとには、もうたくさんの帳簿や書類が雑然と開きならべられてあった。
親子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
おおん神の、お膝許ひざもとで沙汰の限りな! 宗山坊主の背中を揉んでた島田髷の影らしい。惜しや、五十鈴川の星と澄んだその目許も、なまずひれで濁ろう、と可哀あわれに思う。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「なんの、ぬものぞいの。おつる観音様くわんのんさまのお膝許ひざもとへいつたのやがな」
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
そして愛の極印のあるものは、仮令お前がそれを地獄の底になげうとうとも、忠実な犬のようにいち早くお前の膝許ひざもとに帰って来るだろう。恐れる事はない。事実は遂に伝説に打勝たねばならぬのだ
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
祖母としより莞爾にっこりして、嫁の記念かたみを取返す、二度目の外出そとではいそいそするのに、手をかれて、キチンと小口こぐちを揃えて置いた、あと三冊の兄弟を、父の膝許ひざもとに残しながら、出しなに、台所をそっのぞくと
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小さな方を膝許ひざもとへ。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)