節々ふしぶし)” の例文
毎朝、彼が母屋おもやの中央の贅沢な呉蓙ござの上で醒を覚ます時は、身体は終夜の労働にぐったりと疲れ、節々ふしぶしがズキズキと痛むのである。
南島譚:01 幸福 (新字新仮名) / 中島敦(著)
起き返ろうとしたが節々ふしぶしが痛い、じっとしていれば昏々こんこんとして眠くなる、小川のふちへのたって行って水を一口飲んで、やっと気が定まる。
それらの蘆の短い節々ふしぶしを洗ひきよめながら、うねりうねつて、解きほぐした絹糸の束のやうにつやつやしく、なよやかに揺れながら流れた。
ネチネチとトロ火で油煎あぶらいりされるように痛めつけられたら精も根もきて節々ふしぶしまでグタグタになってしまうと、恐れを成さずにはいられまい。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
それとも、からだの節々ふしぶしがいたみ、だんだん四肢てあしのうごきに不自由を感ずるところを見ると、今でいうリウマチとでもいうのかもしれない。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
いわれてみれば、豪気な秦明も五体節々ふしぶし痛い所だらけである。手当をうけてつい二日は過ぎた。しかし考えると居ても起ってもいられない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四日目の晩、私は節々ふしぶしの痛い身を運んで英子の家まで歩いて行った。電車に乗って多くの人と顔を合せるのが嫌だったから。
運命のままに (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
節々ふしぶしはゆるみ肉はだれ、気息をととのえるさえ覚束おぼつかない。太刀を構えて立ったものの、足もとさえも定まらない。睨んだ眼先がチラチラする。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
蘿月は若い時分したい放題身を持崩もちくずした道楽の名残なごりとて時候の変目かわりめといえば今だに骨の節々ふしぶしが痛むので、いつも人より先に秋の立つのを知るのである。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
節々ふしぶしはひどく痛みを覚えながら、発作ほっさの過ぎ去った葉子は、ふだんどおりになって起き上がる事もできるのだった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
灰色の繻子しゅす酷似こくじした腹、黒い南京玉ナンキンだまを想わせる眼、それかららいを病んだような、醜い節々ふしぶしかたまった脚、——蜘蛛はほとんど「悪」それ自身のように
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
軍靴のびょうが階段に触れる音が、けだるい四肢しし節々ふしぶしかすかに響いて来る、跫音はそのまま遠ざかるらしかった。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
余りいつまでも打たれているうちささえることの出来ないいかり勃然ぼつぜんとして骨々ほねぼね節々ふしぶしの中から起って来たので、もうこれまでと源三は抵抗ていこうしようとしかけた時
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
身にしむ節々ふしぶしもあって源氏は涙がこぼれた。紫の女王のは特別にこまやかな情のこめられた源氏の手紙の返事であったから、身にしむことも多く書かれてあった。
源氏物語:12 須磨 (新字新仮名) / 紫式部(著)
のきといはここ十ねんあいだ、一えたことがないのであろう。たけ節々ふしぶし青苔あおこけあがって、そのからちる雨水あまみず砂時計すなどけいすなもりをちるのとおなじに、なくみみうばった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ここに始めて精神の興奮絶頂に達し猛然たる勇気は四肢しし節々ふしぶしに振動した。
水害雑録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
一日の節々ふしぶしである大きな仕事をすましたあとで、ちょっとすわるとか腰でもかけて、ああきょうは美しい日だと空でもながめるか、新聞でも読むか、そうしたゆとりはつくらなくてはならない。
女中訓 (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
彼れは舊來の毒のきゝめで方々の節々ふしぶしが凍るやうな痛さを感じた。
展望 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
節々ふしぶしは、垢切あかぎれに捲かれた膏薬で折り曲げもならぬほどであった。
蜜柑 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
おとら 体の節々ふしぶしが痛くなって困ってしまう。
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
お前の身が節々ふしぶし解けて散らないうちに。
ルバイヤート (新字新仮名) / オマル・ハイヤーム(著)
その言葉の節々ふしぶしが何もかも心得ているもののようで、真綿で首を締められるように苦しくもあるが、この人だけに頼もしいところもあります。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
鎮痛剤がきいて来たのか、節々ふしぶしの痛みはよほどやわらいで来た。大通りからちょっと横町に入って、車は停る。降りて宿屋の門をくぐる。帳場ちょうばに行って案内を乞う。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
実際また僕のからだはろくに身動きもできないほど、節々ふしぶしが痛んでいたのですから。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
怪しの節々ふしぶしこの日頃中、心にかかりおりましたが、ただ今のお言葉きくからに、いよいよ怪しく存じまする。……明日死ぬか今日死ぬか、お言葉どおり人の身の上は、老少不定にござります。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
……とはいえ、節々ふしぶしの痛さ、綿のような疲れ、野太刀を杖に、それからの彼は、まるで亡霊が歩いている姿に異ならない。そしてどこをどう歩いたやらの覚えもなかったが、夜の白々明け頃
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いはんやその誤を正さん親切気しんせつぎにおいてをや。時折遠国えんごくの見知らぬ人よりこまごまと我がつたなき著作の面白き節々ふしぶし書きこさるるに逢ひてもこれまたそのままに打過して厚きこころざしを無にすること度々たびたびなり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
七兵衛の挙動に合点がてんのゆかぬ節々ふしぶしを感づいてみると、そこにもまた多少の心淋しさが湧いて来ないわけにはゆきません。
銀流しがげるにきまってる、いつものがんりきならここらで逃げ出すんだが、身体の節々ふしぶしが痛んで歩けねえ
痴鈍な自分の頭脳あたまを振って、一も二も昔のことを考え出し、大先生のおっしゃったお言葉の節々ふしぶしを思い起し、ゆっくり考えて、考え抜いてみようと与八が覚悟をきめました。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
高声私語する節々ふしぶしを聞いていると、金城湯池きんじょうとうちをくつがえすような気焔だけはすさまじい。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)