)” の例文
丘陵のような山脈の遠くから激しく移動する灰色の雲と一緒に、湿気をもったらッ風が轟々ごうごううなりをあげて襲ってくるのだった。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
傍観は如何いかにも不親切だが、しかし不真面目にさわぎをする連中よりは、一び出たらやると言う修養をして傍観している方、ソノ方が健全な精神的状態ではなかろうか。
人格を認知せざる国民 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
そうかと思えば、豪雨が俄かに注いできて、前山のしぶきが宿の軒を叩き、方々のら谷まで一斉に、急流や瀑布を現出するのに、本谷の水は一向いつもと変らず、澄んでいる場合もある。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
木枯しが森川町の方から大学の前を渦巻いて来る度に、店ごとの瓦斯燈が寒そうに溜息をする。竹村君はこのかぜの中を突兀とっこつとして、忙しそうな往来の人を眺めて歩く。知らぬ人ばかりである。
まじょりか皿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
盛子はらになつた追鮎箱を手にして後からついて行つた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
きょうはまるで朝から日射しものぞかせない灰色の冬空がますます低くおりてきて、ふきあげるひどいらッ風が、腰かけている赤肌の松の巨木をユサユサとゆさぶった。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
県道筋に沿うた土堤どて上を、鷲尾の末弟たちが勤めている郊外電車が、一時間おき位に通った。ぬりげたあかちゃけた電車はグラグラ揺れながら、いつもらッぽであった。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)