矢張やっぱ)” の例文
多「はい、有難うがんすけれども、とうに着ればハア破れやんすから、矢張やっぱり此の古襦袢の方が惜気おしげがなくってかえって働きようがんす」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
お八代さんは前褄まえづまをからげたままサッサと梯子を登って、窓のふちに手をかけながら、矢張やっぱり私と同じようにソロッと覗き込みました。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「いや。文学の天才というのは天才が文学の道へ入ったから文学の天才で、し軍人になっていれば矢張やっぱり軍人の天才でございましょう」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
平生思想を性命として、思想に役せられている人に限って、思想が薄弱で正可まさかの時の用に立たない。私の思想が矢張やっぱり其だった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「脅すぜAさん。じゃ矢張やっぱりお閻魔さまの前に並んでいる『見る眼』や『嗅ぐ鼻』も、ラジオ的に理屈のあるものなのかい。」
十年後のラジオ界 (新字新仮名) / 海野十三佐野昌一(著)
「あちらが暗くなると、ぽかりぽかり光り出すと言って、……此家ここの料理方の才覚でしてね。矢張やっぱり生烏賊を、沢山にぶら下げましたよ。」
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
事実の真髄しんずいに余程近づいたことは確かだった。併し、真髄そのものは、矢張やっぱり今にも分り相でいて、少しも分らなかった。
恐ろしき錯誤 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「ヘッ、その辺は矢張やっぱり昔の姐御だ、——もっともお月様の光じゃ、はっきり判らねえが、美しいことも昔の通りらしいネ」
裸身の女仙 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
狐ではなく、あれも矢張やっぱり野良犬であったのかも知れぬと、自然に安堵の色を見せるようになった。もう冬である。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
矢張やっぱりこれだったのか? マシュースは彼の手袋が濡れているか何うかにって、彼がウッドワード家の金魚鉢に触れたか否かを調べようとしているのだ。
赤い手 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「お前さん此頃このごろは何だかふさいでばかり居るね。平生ふだんから陽気な人でも、矢張やっぱり苦労があると見えるんだね。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「これまでわずらったことがあっても今度のように元気のないことはえが、矢張やっぱり長くないしるしであるらしい」
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
矢張やっぱり天罰ね。先生のご研究というのは何でも戦争に役に立つ事なんですって。これは無事に陸軍だか海軍だか知らないが、ちゃんとその方へ納まったんですって。
ニッケルの文鎮 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
「えい。」と為吉は熱心になって、「その時も矢張やっぱり白山が見えていただろうね?」
少年と海 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
如何どうしたかと云うと、淀川よどがわの一番粗末な船を借りて、船頭を一人ひとり雇うて、その船に例のかめ七輪しちりん積込つみこんで、船中で今の通りの臭い仕事をるはいが、矢張やっぱり煙がたって風が吹くと
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
もう話の着いているのに、あなたが、そう何時までも、のんべんぐらりと、ずる/\にしていては、みんなに、私が矢張やっぱしあなたに未練があって、一緒にずる/\になっているように思われるのが辛い。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
兄哥あにき。……何もそう俺はとがっているんじゃねえ。おめえの枕元で、あんな話をしたというのも、これや矢張やっぱり、おめえにも運があったと云うもんだ、どうだ。この仕事は、のりで行こうじゃねえか』
魚紋 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
矢張やっぱり、——母さんッ」
殺生谷の鬼火 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
洗ッて何うかするとコンガラかすのも矢張やっぱり逆毛が交ッて居るからの事です逆毛と順の毛と鱗が掛り合うからコンガラかッてとけぬのです頭の毛ならば順毛ばかりですからよしんばコンガラかッても終にはとけますそれう女髪結にきいても分る事(荻)夫が何の証拠に成る(大)サア此三本の中に逆毛が有て見れば是は必ず入毛です此罪人は
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
ねえお母さま、あなた私の身をおいといなすって、あなたに万一もしもの事でも有りますと、矢張やっぱり私が仕様がないじゃア有りませんか
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
けれども青眼は矢張やっぱりその眼をみはったまま返事をしませぬ。じっとその顔を見ていた王は、やがて莞爾にっこりと笑って申しました——
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
では、矢張やっぱり女の児か知ら。それにしては麦藁帽子……もっともおさげにつてれば……だけど、其処そこまでは気が付かない。……
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「姉さん達は如何ですか。此頃は店の方が忙しいもんで、大変御無沙汰しちまった。歌子さんは矢張やっぱりピアノですか」
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
悠々として天命を楽むのは実にえらい。例えば「死」なる問題は、今の所到底理論の解決以外だ。が、解決が出来たとした所で、死は矢張やっぱ可厭いやだろう。
予が半生の懺悔 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
あれからの出来事を手っ取り早く言えば、主人の小栗桂三郎は、矢張やっぱ離屋はなれの書斎の中で死んで居たのです。
流行作家の死 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
矢張やっぱりあんたはウッドワードの所へ行ったのね」彼女は自信あり気に云った「そして妾にその事が云えなかった訳は——あんたはスラッグを殺したのでしょう」
赤い手 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
赤外線男に金がるとは可笑おかしい。しかし靴をいていたり、黒い洋服のようなものを着ているというからには、矢張やっぱり金が要るのかしら。しかし、その金をどうして使うのだ。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
矢張やっぱ南東風くだりだったね?」
少年と海 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
「うむ! 矢張やっぱり……」
天狗岩の殺人魔 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
矢張やっぱり本当なんだね。
疑惑 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
矢張やっぱ平地ひらちを歩いているつもりで片足を石垣の外に踏み出すや否や、アッと云う間もなく水煙みずけむりを立てて落ち込んでドンドン川下へ流れて行った。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
しの「それに就いて、勇助どんはわれと一緒に若旦那へいて出たが、勇助どんはけえらねえが、なにか矢張やっぱり汝がと一緒か」
それじゃ矢張やっぱりノアの方船はこぶねから出たのかと聞いたら、善ちゃんにはノアの方船が分らなかった。大内さんは失恋で、少しヒステリーの気味だそうだ。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
貴下あなたには、矢張やっぱ唐突だしぬけに聞えましょうが、私には度々の事で。……何かと申すと——例の怪しい二人のおんなの姿です。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
矢張やっぱりそうだ、私達が心の底で疑って居た通りだ。——幽香子は、あの悪党の夫に殺されたのだ、幽香子名儀の富、数百万円あるだろうと言われて居た財産を
死の舞踏 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
じゃ、何うすりゃいかと云うに、矢張やっぱりそりゃ解らんよ。ただ手探りでやって見るんだ。要するに人間生きてる以上は思想を使うけれども、それは便宜の為に使うばかり。
私は懐疑派だ (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
矢張やっぱ白山はくさんが見える!」
少年と海 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
びっこだと思った乞食こじきが雨が降って来ると下駄を持って駈出かけだしやす、世間にはいくらもある手だから、これも矢張やっぱり其の伝でしょう、お止しなせえ/\
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と云いながら、かごの傍に近寄った。けれども鸚鵡は籠の真中の撞木に止まりながら、矢張やっぱり姫の名を呼び続けた——
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
櫛巻くしまきの髪に柔かなつやを見せて、せなに、ごつ/\した矢張やっぱ鬱金うこんの裏のついた、古い胴服ちゃんちゃんこを着て、身に夜寒よさむしのいで居たが、其の美人の身にいたれば
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
其頃の事をたれに聞いても、皆阿母おっかさんは能く辛抱なすったとばかりで、其他そのたに何も言わぬから、私の記憶に残る其時分の母は、何時迄いつまでっても矢張やっぱり手拭を姉様冠あねさまかぶりにして
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
あ、矢張やっぱりあなただったのか。私も春の独唱会で初めてあなたを見た時から、そんな気がしてならなかったのです。——今晩あんなことを言ったのも、そのためでしたよ。私は矢張り孝行娘を
お母さんは矢張やっぱりハンケチを振っている。お父さんは見えなくなった。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
なに矢張やっぱ洋物屋とうぶつやの旦那様でも、元が士族さんはてで、何かで行詰った事が有って、義理堅い方だから義がたゝないとかなんとか云う所からプイと遣ったか
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
が、そのおぶってる子が、矢張やっぱり……と云って、二度めの子だか、三度目だか、顔も年も覚えていません。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これも矢張やっぱり天意と申せば申されましょうが、……しかしいずれに致しましても斯様かように偉大な正木先生を、当大学に迎えて、思う存分に仕事をさせられたのは
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
いつそのくされ、思う存分書いて見よか、と思ったのは先達せんだっての事だったが、其後そのご——矢張やっぱり書く時節が到来したのだ——内職の賃訳がふっと途切れた。此暇このひまあすんで暮すは勿体ない。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「じゃ、矢張やっぱり」
芳年写生帖 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
作「これこれ長助、手暴くせんがい、腹立紛れにてまえが毀すといかんから、矢張やっぱり千代お前検めるがい」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「一寸、あの方は何と云って。矢張やっぱ普通ただの人間とおんなじ口の利き方をなさる事? 一寸さあ……」
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)