目笊めざる)” の例文
お雪は剥くものを剥いてしまうと、それを目笊めざるに入れて、水口にいる女中の方へ渡した。そして柱にせなかもたせて、そこにしゃがんでいた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
西日にしびかわ井戸端ゐどばた目笊めざるに、のこンのさむさよ。かねいまだこほの、きたつじ鍋燒なべやき饂飩うどんかすかいけいしひゞきて、みなみえだつきすごし。
月令十二態 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その流れの水に屈み込んで、目笊めざるみ入れていたせりの根を洗っていたお人好しの率八が、木履のすそを見上げて声をかける。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
早春の空あくまで青く、若草萌えている土手の下、そこにもここにも目笊めざる片手の蜆取りの姿が世にも鮮やかに見えてきた。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
「そんだらさつせえそれ、十五もんめだんべ、おらがな他人たにんのがよりやけえんだかんな」商人あきんど目笊めざるけてせて
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
そこへ中間ちゅうげんの市助が目笊めざるの上に芦の青葉を載せて、急ぎ足で持って来た。ピンピン歩く度に蘆の葉が跳ねていた。
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
庭の中へ人が出て来たのである、そちらに菜でもあるのだろう、傘をさして、目笊めざるを持った女だった。
雨の山吹 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
目笊めざるを高い竿さおのさきにくくりつけて、表に立てておくのは広い風習で、西の方ではその竹籠に八日の餅を入れて上げるようだが、東京近くのはたいてい空っぽで、目籠めかごの目の数の多いのに驚いて
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
たぎったならば、目笊めざるに受けて、水にて洗う。
岡ふぐ談 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
手には目笊めざるをくるくるふりまわしながら。
黄色い日日 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
勿論もちろん素跣足すはだしで、小脇こわきかくしたものをそのまゝつてたが、れば、目笊めざるなか充滿いつぱいながらんだいちごであつた。
山の手小景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
と、元気のいい声を人ごみの中でいらえた。そしてさも大事そうに両の手に目笊めざるを抱えながら彼の側へ馳けて来た。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして銭湯から帰ると、一尺四方ばかりの板きれを捜しだし、勝手から目笊めざるを持って来て、部屋の隅の鴨居かもいのところへ板を渡し、その上へ目笊を伏せて、坐りこんだ。
赤ひげ診療譚:06 鶯ばか (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「十一はんさ、近頃ちかごろどうもやすくつてな」商人あきんどはいひながらあさ目笊めざるたまごれて萠黄もえぎひものたどりをつてはかりさをにして、さうして分銅ふんどういとをぎつとおさへたまゝ銀色ぎんいろかぞへた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
り減った当り棒、縁のささくれ立った目笊めざる、絵具の赤々したどんぶりなどもあった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
目笊めざるに一杯、ねぎのざくざくを添えて、醤油しょうゆも砂糖も、むきだしにかつぎあげた。お米が烈々と炭を継ぐ。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
最後の菜園の、石垣を跳び下りると、その石垣のひとところ崩れた穴から目笊めざるを取り出した。
桑の木物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
お松は、樽に倚りかかって、目笊めざるの中の野菜の皮をいていた。
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とお蔦は、下に居る女中の上から、向うの棚へ手を伸ばして、摺鉢すりばちに伏せた目笊めざるを取る。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そう云ってかられ物のないことに気がついた、どうしようとあたりを見やると、つい向うに荒物屋の店のあるのをみつけ、このあいだから目笊めざるが一つほしかったのを思いだした。
日本婦道記:糸車 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
膝の上の目笊めざるから里芋さといもがころがった。
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それを子供こどもたちが目笊めざるせるのが、「摘草つみくさをしたくらゐざる澤山たくさん。」とふのである。三光社さんくわうしや境内けいだいは、へん一寸ちよつと子供こども公園こうゑんつてる。わたしうちからさしわたし二町にちやうばかりはある。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
お安く扱われつけているのだから、台所の目笊めざるでその南のえんへ先ず伏せた。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
裏長屋のかみさんが、三河島の菜漬を目笊めざるで買いに出るにはまだ早い。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いつか中も、前垂まえだれの下から、目笊めざるを出して
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)