盗賊とうぞく)” の例文
旧字:盜賊
いや、私は事によったら盗賊とうぞくになるかも知れない。しかし不幸にしてまだ私は正義と人道とを商品に取扱うほど悪徳にれていない。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
やがて盗賊とうぞくどもは、生人形いきにんぎょうおくからってきましたが、くびはぬけ手足はもぎれて、さんざんな姿すがたになっていました。それも道理もっともです。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
諸官庁や諸会社のボーナスが行き渡って、盗賊とうぞくたちが市中や郊外を横行しようとする時分のある夜、ふと私は電話のベルに眼をさましました。
深夜の電話 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
たとえば野獣やじゅう盗賊とうぞくもない国で、安心して野天のてんや明けはなしの家でると、風邪かぜを引いてはらをこわすかもしれない。○をさえると△があばれだす。
蛆の効用 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それはおそろしい盗賊とうぞくの出てくる、西洋の物語だったのですが、さし絵にあった盗賊のものすごい姿が、わすれようとしてもわすれられないのです。
大金塊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
然し、その秋から断行された町奉行の、放火ひつけ盗賊とうぞくあらための厳しさは、彼等の仲間にもひどくたたって、二両などと云う金の都合のつく者は一人もなかった。
お美津簪 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「さて、この夜中に、黒装束くろしょうぞく横行おうこうするやからは、いずれ、盗賊とうぞくのたぐいであったかもしれませぬ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
紀昌の家にしのび入ろうとしたところ、へいに足をけた途端とたんに一道の殺気が森閑しんかんとした家の中からはしり出てまともにひたいを打ったので、覚えず外に顛落てんらくしたと白状した盗賊とうぞくもある。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
此の旦那がのお瀧という女を正直者だと思召して、田舎から東京とうけいへ連れて来て、少しばかり雇人やといにんのようにしてお使いなすって居らっしゃると、盗賊とうぞくが這入りまして斬殺きりころされ
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
屋内おくないはべつに取乱とりみだされず、犯人はんにんなにかを物色ぶっしょくしたという形跡けいせきもないから、盗賊とうぞく所為しょいではないらしく、したがつて殺人さつじん動機どうきは、怨恨えんこん痴情ちじょうなどだろうという推定すいていがついたが、さて現場げんばでは
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
ハクチョウたちは、みんな首のところに黄金の輪をつけ、頭にはきらめく青い星をいただいていました。ボートが緑の森のそばを通ると、森の木々は、盗賊とうぞく魔女まじょの話をしてくれました。
なんでもお寺へ盗賊とうぞくにはいったその男が、のこらず白状はくじょういたしましたそうです。
といって、あっはははとわらっていると、そのうちに巡査じゅんさがくる。さっそくみょうおとこは、盗賊とうぞくとまちがえられて警察けいさつれられていきましたが、まったくの盗賊とうぞくでないことがわかって、放免ほうめんされました。
電信柱と妙な男 (新字新仮名) / 小川未明(著)
一時間ののち陳彩ちんさいは、彼等夫婦の寝室の戸へ、盗賊とうぞくのように耳を当てながら、じっと容子をうかがっている彼自身を発見した。寝室の外の廊下には、息のつまるような暗闇が、一面にあたりを封じていた。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「将軍はただいまから、盗賊とうぞくたいじに出発のところでござーい」
正坊とクロ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
覆面ふくめん盗賊とうぞく今暁こんぎょう渋谷の××銀行を襲う、行金こうきん強奪ごうだつして逃走す
香水紳士 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
盗賊とうぞくどもは人形をおどらして、金もうけをするつもりでしたが、中にさるがはいっていないんですから、人形はおどれようわけがありません。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「二十面相」というのは、毎日毎日、新聞記事をにぎわしている、ふしぎな盗賊とうぞくのあだ名です。その賊は二十のまったくちがった顔を持っているといわれていました。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
領主りょうしゅ城郭じょうかくしかける盗賊とうぞくもあるまい。では、何者なにもの乱入らんにゅうしたのじゃ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「もう大丈夫だいじょうぶです」とさるはいいました。「人形は盗賊とうぞくどものところにあるにちがいありません。私が行って取りもどしてきましょう」
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
おおよいところで! は甲州北郡きたごおり領主りょうしゅ穴山梅雪あなやまばいせつじゃ、いまわしのあとより追いかけてくる裾野すその盗賊とうぞくどもを防いでくれ、この難儀なんぎすくうてくれたら、千ごく二千ごくの旗本にも取り立て得させよう。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
取調の結果、この兇行は盗賊とうぞく仕業しわざであることが明かになった。
何者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「さあ、何だろうなあ……盗賊とうぞくか、海賊かいぞくか、密輸入者みつゆにゅうしゃか、むほん人か……」
街の少年 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)