生中なまなか)” の例文
二葉亭は生中なまなか文名が高く在留日本人間にも聞えていたので、就任の風説あるや学堂の面々は皆小説家の提調を迎うるを喜ばなかった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
生中なまなかいぢくらずに置けば美しい火の色だけでも見られたものを、下手へたに詩にばかりもとの面白い感情が失はれたのと同じ様な失望を感じた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
生中なまなかこがれて附纒つきまとふたとて、れてはれるなかではなし、可愛かあいひと不義ふぎせてすこしもれが世間せけんれたらなんとせう
うらむらさき (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
生中なまなか批評的精神などがあつては、見ようと思ふものも見えない。聴かうと思ふことも聞けない、味ふと思ふことも味へない。
批評的精神を難ず (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
生中なまなかに新聞を見風俗畫報などを讀み得るやうになつてゐるこの若い女性の胸にとつてはそれも全く無理のない事であらう。
姉妹 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
如何となれば生中なまなか血行の事などを文字言語によりて知つて、之をいぢり廻しては惡果を來さぬとも限らぬからである。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
我々文士からいっても、好い加減な選り好みをされた上に、生中なまなかもやし扱いにされるのはありがたいものではない。
文芸委員は何をするか (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それに重行には圧迫された恨みも手伝っているし、生中なまなかな事でウンといわないのも無理もないのだ。
生中なまなか夏になって雪が溶けてしまうので問題は面倒になるのであるが、この冬の状態のままが続くものならば、土木や建築に関する概念などは全く変ってしまうことであろう。
雪の話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
生中なまなか私を慰めたりするのが悪いとでも思つてゐる様に、皆言ひ合した様に私に対して沈黙を守つて居た。彼等同士で話す時でも、私を怖れ憚るやうに、ひそ/\と囁き交すのであつた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
正義の為には夫婦離反してもよいというかも知れぬが、世に親子夫婦睦まじく笑って暮すよりも重んずべき主義があろうか。生中なまなか宗教がある為に宗旨争いで家庭の不和が生ずることは随分ある。
論語とバイブル (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
生中なまなか礼儀などを守らず、つけ/\言つてくれる此女を、もう世の中に唯一人の頼りにして、かつて自分等の村の役場に、盛岡から来てゐた事のある助役様の内儀おかみさんよりも親切な人だと考へてゐた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
生中なまなかな暖気で政府を失つてゐる。
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
文学ではとても生活する能力はないものと断念あきらめ、生中なまなか天分の乏しいのを知りつつも文学三昧に沈湎ちんめんするは文学を冒涜する罪悪であると思詰め
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
生中なまなか煖房だんぼうの設備などがないと身体の方が自然の方に適応して行くらしいのであるが、そのためには気温の変化が少いということが一つの有利な条件のように思われるのである。
のこれるはじうへならず、勿躰もつたいなき覺悟かくごこゝろうち侘言わびごとして、どうでもなれぬ生中なまなかきてぎんとすれば、人並ひとなみのういことつらいこと、さりとは此身このみへがたし
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
心中を涅槃ねはんにくつつけたやうなところがあるが、生中なまなかさういふ小乗に行かなかつたところに、却つてかれの勇者たり智者たるところがあるのであつて、這個しやこ仏性ぶつせいありと言はずには居られない。
西鶴小論 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
さうして生みの父母は……? ひよつとしたらお信さんはその時生中なまなか浪華亭の養女むすめになどなつたのを、そしてその為に生みの父母を失つて了つたのを、自ら悔い且つ恨んでゐたかも知れない。
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
お定は生中なまなか禮儀などを守らず、つけつけ言つてくれる此女を、もう世の中に唯一人の頼りにして、嘗て自分等の村の役場に、盛岡から來てゐた事のある助役樣の内儀おかみさんより親切な人だと考へてゐた。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
空しく壮図を抱いて中途にして幽冥ゆうめいに入る千秋の遺恨は死の瞬間までももだえて死切れなかったろうが、生中なまなかに小さい文壇の名を歌われて枯木かれきの如く畳の上に朽ち果てるよりは
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
とても憎くまるゝほどならば生中なまなか人に媚びて心にもなき追縱に、破れ草韃の蹈つけらるゝ處業はなとて、口惜し涙に明暮の無念はれまなく、我が孫かはゆきほど世の人にくければ
暗夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それかといって、これらの現象を本当に突きとめて研究しようとしたら、実は生中なまなかの腕にはかからないのである。この頃ある機会に東京のスケートリンクというものに初めて行ってみた。
スポーツの科学 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
それは、生中なまなかそんなことをして、その珠のやうな恋心にきずをつけるのは堪らないといふその君の心はわかつてゐるけれども、さういふ風にそつとして置いては駄目だよ。もう少し勇気を起し給へ。
ひとつのパラソル (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
おやといふのまして如何いかならん、さりとは隱居樣いんきよさまじみしねがひも、令孃ひめこヽろには無理むりならぬこと、生中なまなかみやこきて同胞きやうだいどもが、浮世うきよめかすをするもらし、なにごとものぞみにまかかせて
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
母は如何にと問はるゝごとに、袖のぬれしは昔しなりけり、浮世に情なく人の心に誠なきものと思ひさだめてよりは、生中なまなかあはれをかくる人も、我れをあざけるやうに覚えてつらにくし、いでや
琴の音 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
どうでも死なれぬ世に生中なまなか目を明きて過ぎんとすれば、人並のうい事つらい事、さりとはこの身に堪へがたし、一生五十年めくらに成りて終らば事なからんとそれよりは一筋に母様の御機嫌
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
生中なまなかあはれをかくる人も、我れを嘲けるやうに覺えて面にくし、いでや、つらからば一筋につらかれ、とてもかくても憂身のはてはとねぢけゆく心に、神も佛も敵とおもへば、恨みは誰れに訴へん
琴の音 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)