涵養かんよう)” の例文
そのほかに直接間接に劇の趣味を涵養かんようしてくれたのは、かの定さんの借りている女髪結の家の娘が常磐津ときわずを習っていることであった。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
(ロ)水源すいげん涵養かんよう。 森林しんりんはかように雨量うりよう調節ちようせつすることが出來できると同時どうじ一方いつぽうでは水源すいげんやしなひとなり、河水かすいれるのをふせぎます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
また美術の趣味を涵養かんようすることもなく、すこぶる乾燥かんそう無味な人間になり果てて、朝から晩まで事業々々とばかり心がけて年を送った。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
しかれども、人民自治の精神を涵養かんようし、その活溌かっぱつの気象を発揚するものに至ては、勢い英国人種の気風をさざるを得ず(大喝采)。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
したがって著作家は立派な趣味を育成したり、高尚な嗜好しこう涵養かんようしたり、通俗以上の気品を修得する事が不必要になって参ります。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
淡窓の方針では、詩を吟ずることを教育の上に応用して、塾生の士風を涵養かんようするにこれを用いたものです——朗詠が多く入っています。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それがこのごろでは、国民思想涵養かんようの一端というのであろうか、警察の許可を得て、いつのまにか復旧されて来たように見えるのである。
沓掛より (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
今になって考えて見れば、私は彼の朗読に依って、初めて外国語に対する趣味と理解力とを涵養かんようせられたのに違いありません。
金色の死 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そしてかくも強い好戦欲を涵養かんようし、最強者の権利は神の権利なりと考える人民の間では、戦争の機会に不足することは決してなかったであろう。
またやがてそれが作者の心の涵養かんように役立って居ることに気づくであろう。作品をなすという事はそういうものである。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
これは一面において科学的思想の涵養かんようの不足をものがたると共に、他面においては上述の多年の偸安とうあん的な習性が災いしているのではないかと考えられる。
日本文化と科学的思想 (新字新仮名) / 石原純(著)
それらの茶人たちほど民藝の美を深く見守った人々は世界にない。工藝品に対する日本人の卓越した愛慕は、全く茶道に涵養かんようされたものだと云ってよい。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
芸術の信念を涵養かんようするに先立ちてまづ猛烈なる精力を作り、暁明ぎょうめい駿馬しゅんめに鞭打つて山野を跋渉ばっしょうするの意気なくんばあらずと思ひ、続いてうまやに駿馬を養ふ資力と
矢立のちび筆 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
教学の根本を彼は師弟の結びにありとなし、師たるものを重んじ、その徳を涵養かんようさせた。また内治の根本はにありとなし、吏風を醇化じゅんかし吏心を高めさせた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
科学精神の涵養かんように立派な普及書を出しておられる先生方に、礼を失するかの如く誤解されるかもしれない。
簪を挿した蛇 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
その平生へいぜい涵養かんよう停蓄ていちくする所の智識と精神とにるべきは勿論もちろんなれども、妾らを以てこれを考うれば、むしろ飢寒きかん困窮こんきゅうのその身をおそうなく、艱難辛苦かんなんしんくのその心を痛むるなく
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
その涵養かんようせる新智識と独得の才気を以て各種の事業を企て、大部分失敗に終ったが、この新たなる経験を利用して将来大いに為すべき望みを持ちながら、不幸にも夭折ようせつしてしまった。
東洋学人を懐う (新字新仮名) / 大隈重信(著)
こうしたことも結局郷土人に科学の知識を涵養かんようしようとする私の努力だったのです。
平安奠都によって京都において涵養かんようされ、爛熟し、しかして行き詰まったのであるが、さてこの文明とともに終始すべき運命の京都も、またその文明の行き詰まりとともに行き詰まった。
けだし吾人の最もまさに心を留めて涵養かんようすべき所この物より尚なるはなし。
古物から生ずる崇敬の念は、人間の性質の中で最もよい特性であって、いっそうこれを涵養かんようしたいものである。いにしえの大家は、後世啓発の道を開いたことに対して、当然尊敬をうくべきである。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
この史的知識の涵養かんようということは、殊に日本に於て甚だ困難なのである。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
それであなたは朝や夕べに手洗をつかうことも誇るがいいでしょう。そういう精神が涵養かんようされなかったために未だに日本新文学が傑作を生んでいない。あなたはもっと誇りを高く高くするがいい。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
この田舎いなかでは、音楽的趣味を涵養かんようすることはおそらくできなかった。
学校外にあって児童の情操涵養かんように力を注ぐものは児童作家である。
日本的童話の提唱 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「自治独立の精神を涵養かんようする為めさ。この方が子供も喜ぶよ」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
善と社会的自覚の理想を涵養かんようしてくれた。
桜の園 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
この観念の涵養かんようみだりにくりかえすことによりて目的を果たし得るものでない。これを乱用すればかえって正反対の結果を来たすを恐れる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
涵養かんようを受けるので、また異趣味のものに逢着ほうちゃくするために啓発されるので、また高い趣味に引きつけられるがために、向上化するのであります。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
我国固有の国民思想を保存し涵養かんようさせるのでも、いつまでも源平時代の鎧兜よろいかぶとを着た日本魂やまとだましいや、滋籐しげどうの弓をげた忠君愛国ばかりを学校で教えるよりも
変った話 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
(ホ)ゆきなだれと海嘯つなみ防止ぼうし。 それからまへにおはなしした洪水こうずい豫防よぼうや、水源すいげん涵養かんようのほかに森林しんりん雪國ゆきぐにですと『ゆきなだれ』のがいふせぐことも出來できます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
だが、私のとくに注意したいことは、知識は一朝にして学び得るものではあっても、これが根本をなすところの科学的思想の涵養かんようはけっしてさほど容易ではないという点である。
日本文化と科学的思想 (新字新仮名) / 石原純(著)
井の中の蛙が誰も知らないうちに涵養かんようしていた力の深さや偉大さを少しも考えてみない。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宜しく少年の子弟をして益〻自治の精神を涵養かんようし、愈〻ますます活溌の気象を発揚せしむべし。あえてこれを抑制し、以てようやまさに復せんと欲するの元気を再衰せしむるを得んや(大喝采)。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
互譲ごじょうの精神を以て相頼り相助くるところに男女の義務が存在し、美しき道徳の根源はここに涵養かんようされる。即ち婦人には懐胎という自ずからなる天の使命あり、すでに分娩すれば家業は出来ず。
婦人問題解決の急務 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
僕はくれぐれも言うが、国家のために忠君愛国の観念かんねんとうとぶべきものにして、ひとり教育のみならず実業においても涵養かんようすべきものであると思う。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
そうして土着した住民は、その地形的特徴から生ずるあらゆる風土的特徴に適応しながら次第に分化しつつ各自の地方的特性を涵養かんようして来たであろう。
日本人の自然観 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
客観すなわち主知の方は以上の通りであるが、主観すなわち主感の方はと申すと、真を発揮するに対して、美、善、壮に対する情操を維持するか涵養かんようするか助長するのが目的であります。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あるいはこれがために各民族が各々固有の文化を発揮し、かえって独得の美術、思想等を涵養かんようし、大体に於て人類一般の進歩に貢献するようになったと思われようが、ある事に就てはそうであろう。
東西相触れて (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)