けた)” の例文
今度は断然けたちがいに感度を低下してしまって、もう拡声器では聞かれなくて、テレフォンでやっと聞こえるようになってしまった。
ラジオ雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
たとえば、僕のうちの電話番号はご存じの通り4823ですが、この三けたと四けたの間に、コンマをいれて、4,823と書いている。
愛と美について (新字新仮名) / 太宰治(著)
どうも、むじつにしてもあんまりけたが違い過ぎるようだから、何とかしてやりてえが、おれは世間の暗い身柄で、どうにもならねえ。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼と我れとの相違は、いわば十露盤そろばんけたが違っているだけで、喜助のありがたがる二百もんに相当する貯蓄だに、こっちはないのである。
高瀬舟 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「しかし、やっぱり一種の見せ物でしょうね。いくら変わった見せ物でも、五十万円という入場料は、けたはずれじゃありませんか」
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
すっかり息切れがし、階段も各階もけたはずれに高かったが、画家はまったくてっぺんの屋根裏部屋に住んでいるということだった。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
ある時も、庸三はその友人につれられて、麻布あざぶの方に住んでいる、庸三などとはまるで生活規模のけたの異う婦人をおとずれてみた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「とても相談にならない、けたがちがいます、私もだてにこんなしょうばいをしているんじゃあねえんですから、おい滝さん、失礼しよう」
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
東北の方から、西南の方角に吹いて、屋根や門は、四、五町から十町も吹きとばされ、けた、なげし、柱は、あたりに飛び散った。
それら、花にもうてなにも、丸柱まるばしらは言うまでもない。狐格子きつねごうし唐戸からどけたうつばりみまわすものの此処ここ彼処かしこ巡拝じゅんぱいふだの貼りつけてないのは殆どない。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
橋は雨で一面にれている。高下駄たかげたすべりそうだし、橋板の落ちている所もある。けたの上を拾って歩くと、またしても足許に小僧が絡む。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
低いけたにひもでつるし、下縁を壁の中途に小さな横木をわたしてささえてあったので、低すぎて、あまりばえがしなかった。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
目高なんかとけた違いだわ、もうもうは、殺されても、まだ、殺されたことを知らないでいるかも判らない、きっと、もうもうは、何時でも
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
或る者は、瀬田の河流に身を沈めて、橋杭を補強し、或る者は、けたを這い渡って彼方から綱を投げ、長い板を引っぱっている。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
是故にかの十字架のけたを見よ、我今名をいはん、さらばその者あたかも雲の中にてそのき火のす如きわざをかしこに爲すべし。 三四—三六
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
ことに亜米利加アメリカ人なんか「手作りハンド・メイド」とさえ聞けば、どんなにけたはずれな高値をも即座に肯定して、随喜の涙とともに否応いやおうなしに買い取って行く。
教場内きようじようないおいてはつくゑしたもつと安全あんぜんであるべきことは説明せつめいようしないであらう。下敷したじきになつた場合ばあひおいて、致命傷ちめいしようあたへるものははりけたとである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
富士の山の高さが海面上一万何千何尺と何寸何分というような計算が出ても、最後の三けたか四桁は実は何の意味もない。
我らの哲学 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
これが茄子なら茄子、柿なら柿と、ただ一つのものだけならば、それがいかにけたはずれの大きさであってもこうまでは愕かされはしなかった筈だ。
火星の魔術師 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
「紅毛人は、やっぱし、教会だとか慈善だとか云ってけつかって、かげじゃなか/\大きな商売をやっているね。こちとらとは、けたが異うわい。」
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
それを発端として、火葬場が今の構造にならぬ前、四本のけたを打つて其中へ棺桶を入れて焼いた頃、随分物凄い光景を演出したことを話し出した。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
しかし下町の目抜と山の手のぱなとは地価のけたが違う。新太郎君の家も、二百坪足らずだが、日本一の銀座の地主さんだ。悲観することはない。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
こういう風に考えていたのは私たちばかりではないらしい。ところがそれがまるでけたちがいの数字であったのである。
原子爆弾雑話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
「然し何か一つ成功して見たいではないか」と、義雄も渠についてそこを出たが、玄關のけた垂木たるきがカツラだと云ふのを名殘り惜しさうに見てゐる。
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
長んがいあごと、とぼけた話し振りと、そしてけたはづれた己惚うぬぼれが、どんな相手にも、警戒させずに近づけるのです。
大工はさげふりと差金で柱やけたを測る。彫刻家は眼の触覚がつかむ。所謂太刀風たちかぜを知らなければ彫刻は形を成さない。
触覚の世界 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
とはいうものの、他のよわい通信を聞き分けることは、とてもできないくらい雑音の強さはけたはずれに大きかった。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
こいつあいよいよけたがはずれているわい——逆らわぬに限ると閑山、鎧櫃を戸外そとから見えない土間のすみへすえた。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
故更ことさらけたはずれた馬鹿々々しい種々雑多な真似をして一々その経験をあじわって見て、これが人生ジーズニだよと喜んでいた。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
家の壁は葡萄ぶどう、薔薇の蔓にまとわれ、半身像を以て飾られ、まどけたには瓶を並べ、纏絡てんらく植物それより生え出でる。舞台の右方はこの壁にて仕切られるなり。
旋風に巻き込まれてその儘地上の上にペシャンコに倒されてしまったものや、けたと柱だけが残って障子や、壁はすっかり吹き抜かれてしまったのもあった。
現代語訳 方丈記 (新字新仮名) / 鴨長明(著)
いそに漂着ひょうちゃくしたる丸太や竹をはりけたとし、あしむすんで屋根をき、とまの破片、藻草もぐさ、松葉等を掛けてわずかに雨露あめつゆけたるのみ。すべてとぼしく荒れ果てている。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
路は組みあげたりたいらげたりしなければならないだろう。測量係りが水を蹴立てて、その岸この崖と歩いたところは、けたを渡して橋を架けねばならぬ場所でもあろう。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
世の中には私の場合などより、けた違いに多い人もあろうが、ともかく私の蒐集も少い方とはいえぬ。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
もっとも俺にくらべたら、けたちがいに若いだろうが。彼はいそいそと、背の荷物をおろしている。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
この棒は棟の底部を横に貫くけたに、藁繩で結びつけられることによって、その位置を保っているらしい。この種の屋根は、私が日本で見たもののどれとも、全く異っている。
お延は網代組あじろぐみの竹垣の中程にあるその茅門かやもんを支えているちょうななぐりの柱と丸太のけたを見較べた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
南大門以内の寺域をいれると、前記のように二十四万余坪となり、更にけたはずれに大きい。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
だんなの博学は、おいらの博学と見ちゃまたけたが違わあ。そうと眼がつきゃ、大忙しだ。
何十人か何百人かの女学生がこっそり紙と糊とで造った日本の秘密兵器とはけたが違うよ
長崎の鐘 (新字新仮名) / 永井隆(著)
この点は、当時の天台座主であった大僧正慈円の歌にも見られるところではあるが、その気品の森厳さはやはりけたがちがうのである。帝王体はやはり臣家体とはちがうのであった。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
然し金菱にかゝったら、いくら専務がジタバタしようが、けたから云ったって角力すもうにならない。これからは「金融資本家」と結びついていない「産業資本家」はドシ/\没落してゆくんだ。
工場細胞 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
そんじょ、そこいらの自称学者先生とは、けたちがいの大学者なんだ。三宅驥一博士はかつて、牧野博士のことを「百年に一度出るか出ないかの大学者」とまで折り紙をつけて激賞されたんだ。
人間の霊魂たましひ胡桃くるみのやうに安く取引される日本では、少しけたはづれである。
火の用心の歌、——「霜柱、氷のはりに雪のけた、雨のたる木に露のき草」
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
白雲がはるか下界のこの円柱をけたにして、ゆったり空をわたるのが見えた。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
チト老楽おいらくをさせずばなるまい、国へ帰えると言ッてもまさかに素手でもかれまい、親類の所への土産は何にしよう、「ムキ」にしようか品物にしようかと、胸ではじいた算盤そろばんけたは合いながらも
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
菟道川うぢがはや蛍を見ると板橋のけたにもたれて更けぬこの夜は
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
その三つのけたは各異なった総額を与うるものである。
「冗談じゃない、けたが違うんだ。」
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)