日傭ひよう)” の例文
甲斐性がないばかりに日傭ひよう取にまで身を落し、好きな尺八一管を友に、溝口屋の裏に住んで見る影もなく生きてゐる馬吉だつたのです。
小作もせず年中日傭ひよう取りだから賃取り甚太といふ名もついてゐる。この前の選挙の時には、甚太も五十銭貰って一票入れに行って来た。
夏蚕時 (新字旧仮名) / 金田千鶴(著)
「今から去んで日傭ひようでも、小作でもするかい。どんなに汚いところじゃって、のんびり手足を伸せる方がなんぼえいやら知れん。」
老夫婦 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
小谷狩こたにがりにはややおそく、大川狩おおかわがりにはまだ早かった。河原かわらにはせきを造る日傭ひようの群れの影もない。木鼻きはな木尻きじりの作業もまだ始まっていない。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そのうえ成信には理解のつかないところがたくさんある、樽ひろいとか蜆売りとか、そのほか日傭ひようとりの暮しなどは殆んどわからなかった。
泥棒と若殿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
受し者なればお里のお豐は洗濯せんたくをし又惣内の甚兵衞は日傭ひよう駈歩行かけあるき手紙使てがみづかひつちこね草履ざうり取又は荷物にもつかつぎ何事に依ず追取稼おつとりかせぎを爲し漸々其日を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ほとんど日傭ひよう取り同様の臨時雇いになり、市中の電気器具店廻りをしていたが、ふと蒔田が同郷の中学の先輩で、その上世話好きの男なのにほだされ
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「そねエな殺生せっしょうしたあて、あにが商売になるもんかよ。その体格からだ日傭ひよう取りでもして見ろよ、五十両は大丈夫だあよ」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
秀吉はこんどの工事にあたって、人足の賃銀を、一日割の日傭ひよう(日給)にせず、請負うけおい制度にして、その募集とともにこういう高札を立てて約束した。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
例年れいねんのやうにいそがしい季節きせつ日傭ひようくことも出來できまいし、それにはおふくろてられた二人ふたり子供こどもることだし
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
寺では二三日前から日傭ひよう取りを入れて掃除をしておいたので、墓地はきれいになっていて、いつものようにしきみの枯葉や犬のくそなどが散らかっていなかった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
鶏小屋とりごやに大きな青大将が入って、模型卵もけいらんをのんだ、と日傭ひようのおかみが知らして来た。往って見ると、五尺もある青大将が喉元のどもとふくらして、そこらをのたうちまわって居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
戴十たいじゅうというのはどこの人であるか知らないが、兵乱の後は洛陽の東南にある左家荘さかそうに住んで、人にやとわれて働いていた。いわゆる日傭ひよう取りのたぐいで、甚だ貧しい者であった。
日露戦争後の不景気がやって来た頃、私のうちでは残飯売りをめたのだった。そして日傭ひよう稼ぎをした父は日露戦争に従軍したので一時金百五十円で馬を買って荷馬車きを始めた。
あまり者 (新字新仮名) / 徳永直(著)
それにわしや川上の旦那衆のとこさ日傭ひようとりにやとはれて行つてます。そこの小作衆が組合さはまつとつてごつく年貢がまかつたいふことやし——演説會もわしや二三べんは聽いとるよつて。
黎明 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)
日傭ひようで雇われて手伝いにいったものは、大野木村から平戸の農民たち四、五人、山から降りていた馬丁べっとうの福次郎と、水番の六蔵、この村からはその時用があって小浜おばまにいっていた、この石屋と
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
馬吉のやうに日傭ひよう取になつたのもあり、六助や勘次のやうに、たくみに溝口屋に取入つて、三年經たないうちに良い顏になつてゐるのもあつたわけです。
日傭ひようは、いくらかかっても関わぬのだ、折角、悠々とこれからの生涯を楽しむつもりで建てるのだからな』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
勘次かんじしをれたくびもたげて三にんくちのりするために日傭ひようた。かれとなり主人しゆじん使つかつてもらつた。こめ屹度きつとかれかせられた。上手じやうずかれらさないでさうしてしろいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
見てくれる人がないから、日傭ひようのおかみを引張って来て見せる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
彼等かれら自分じぶん田畑たはたいそがしいときにもおはれる食料しよくれうもとめため比較的ひかくてき收入みいりのいゝ日傭ひようく。百姓ひやくしやうといへば什麽どんな愚昧ぐまいでもすべての作物さくもつ耕作かうさくする季節きせつらないことはない。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
日傭ひようのおかみが大急ぎで乾し麦や麦からを取り入れて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)