旋毛つむじ)” の例文
「ね、親分、金があつて暇があつて、妾があつて風流氣があるんだから、思ひ付くことだつて、世間と違つて旋毛つむじが曲つてゐますね」
鄔陀夷曰く姑の過ちでない、彼の両乳の間および隠密処に黒黶くろぼくろと赤黶と旋毛つむじ、この三の暴悪相があるからだと教えじきを受けて去った。
相手はすっかり機嫌を損じて一層旋毛つむじを曲げてしまい、もう何を云って来ても鼻であしらって、てんで取り上げないのであった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と、お天下さまはお旋毛つむじを曲げると手がつけられない。主人公も友三郎君も年に両三度必ずこんな目に会う。遊んで食って行く税金だろう。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
考へは結構だが、自体学者や芸術家などいふ連中れんぢゆうには旋毛つむじの曲つたのが多いから、英霊塔を建てたからといつて、そのまゝ成仏はしなからう。
私は少し旋毛つむじ曲りなので、外国人が訪ねて来ても、本当に日本のことが知りたくて来る人にだけ親しくすることにしていた。
故郷七十年 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「かめへん、かめへん。あてが寂しうなるから歸つたらいかんいふのに、歸るいふやうな旋毛つむじまがりの根性を直してやる。」
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
コッテエヂの一件ですこし旋毛つむじを曲げてゐたので、いい復讐が出來ると思つて、面白半分に道造君をからかひ出しました。
緑葉歎 (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
自分ばかりではない、母や嫂に対しても、機嫌きげんの好い時は馬鹿に好いが、いったん旋毛つむじが曲り出すと、幾日いくかでも苦い顔をして、わざと口をかずにいた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかしその反対に、正直な男をあまりしつこく悪漢呼ばわりすれば、彼は、自分がまんざら悪漢でなくもないことを証明したい、旋毛つむじ曲りな欲望を起すだろう
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
本当の科学を修めるのみならずその研究に従事しようというものの忘るべからざる事は、このような雷同心の芟除さんじょにある。換言すればつとめて旋毛つむじを曲げてかかる事である。
又、あのいこぢな、旋毛つむじまがりの、善とか美とかによく反撥する性質を持つたトルストイから、あの人間の愛に満ちた作が生れた。私達は静かに考へて見なければならない。
自他の融合 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
加福の師匠は繍の名家としてまた「旋毛つむじ曲り」として業界から折り紙をつけられている。
痀女抄録 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
うなじとりに似て鬣髪たてがみ膝を過ぎ、さながら竜に異ならず、四十二の旋毛つむじは巻いて脊に連なり、毛の色は白藤の白きが如しと講釈の修羅場では読むという結構な馬に、乗人のりてが乗人ですから
こうさとするように説かれても旋毛つむじの曲った玄斎は納得しようとはしなかった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この山などは今更日本アルプスでもあるまいという旋毛つむじまがりの連中が、二千米を超えた面白そうな山はないかと、蚤取眼のみとりまなこで地図の上を物色して、此処ここにも一つあったと漸く探し出されるほど
皇海山紀行 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
折々は旋毛つむじの曲った兄哥などに正体を見すかされて、錫製で化けきろうとした巻たばこ入れなどを、「なんでい、こりゃアンチじゃァねえか」と一本きめつけられ、グウの音も出ないところなのを
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
助手は根元で無造作に結へてある元結もとゆひを切つて、兩耳の後ろと旋毛つむじの邊にかけて前頭部と後頭部の髮を二束ふたゝばに分けた。分け目には日の目を見ない一筋の皮膚が冷やかな青白さをもつて現はれ出た。
実験室 (旧字旧仮名) / 有島武郎(著)
三唖も旋毛つむじの少々曲った変梃へんてこな男だから嫌気いやきがさしてた暫らく足を遠のくと、今度は他の家へはマメに出掛けるくせに社のものの方へはまるきりいたちの道てのはあんまり義理を知らなさ過ぎるぜと
と、旋毛つむじを曲げ出したのを、お勢はそれとは気がつかないものだから
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
もともと神霊界しんれいかいありての人間界にんげんかいなのでございますから、今更いまさら人間にんげん旋毛つむじげて神様かみさま無視むしするにもおよびますまい。神様かみさまほうではいつもチャーンとお膳立ぜんだてをしてってくださるのでございます。
「それもいいかもしれぬ。どっちみち、今のような腐爛ふらんした末期の世では、もともと、旋毛つむじまがりにできているお互いは、真面目にもなれず、いよいよ住みにくくなるばかりだろうし……。や、や、ちょっと待ってくれ。まだいやがる」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
日比谷公園から虎の門まで、織るが如き往来の中を、花形女優に裸で歩かせようというのは、何んという旋毛つむじの曲った企てでしょう。
踊る美人像 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「それが後から分ったものですから、平塚君は旋毛つむじを曲げて、わざと手紙をくれないのかとも思っています」
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
先日こなひだの事、都路華香氏を訪ねて、いつものやうにそろそろ拝み倒しにかゝつたが、旋毛つむじ曲りの華香氏を動かすには何でも画家ゑかき仲間の悪口わるくちを言はねばならぬと思つたらしかつた。
煙草たばこの煙りを口からフワリ……これが三蔵の挨拶あいさつである。さすが代稽古をするだけに腕前はすぐれてはいたものの、その腕前を鼻にかけ、旋毛つむじの曲がった男、こんな挨拶もするのであった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
『甲陽軍鑑』一六に、馬に薬を与うるに、上戸じょうごの馬には酒、下戸げこの馬には水で飼うべし、馬の上戸は旋毛つむじ下り、下戸は旋毛上るとあり。馬すら酒好きながある。人を以てこれにかざるべけんやだ。
七つ下りの背広、襟飾ネクタイが神田っ旋毛つむじ位に曲って、モシャモシャと無精髯の生えた顔は、思いきや哲学者のような峻烈なのに変って居ります。
笑う悪魔 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
たった二つ違いで好い遊び相手だけれど、おはじき玉一つのことでも片一方の旋毛つむじが曲るとやかましくなる。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
牢屋でこさへる物にも色々ある。そのなかで手錠は少し気味が悪かつたし、加之おまけに銀貨や女の鼻先と同じやうに手触てざはりが冷た過ぎた。だが、旋毛つむじ曲りのゴリキイは顔を顰めてそれを受取つた。
塀隣のくせに、年中いがみ合いの喧嘩でさ、もっとも巴屋さんが金に飽かして桶甚の家屋敷を買おうとしても、旋毛つむじを曲げて動かないのが喧嘩のもとなんだそうで——
と細君はなまじ争って来年も飲むなぞと旋毛つむじを曲げられては困ると思ったから、快く晩酌を許した。
一年の計 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
滅多に他人ひとの言ふ事をかなかつたあの旋毛つむじ曲りの漱石氏も滝田氏に懸つては手も脚も出なかつたらしく、書、画、扇面、額、軸物……と相手の言ふが儘に手当り任せに書かせられてゐる。
君の強情さも旋毛つむじ曲りも知り尽して居るし、それに近頃精神的にも余程変って居るようだというから、表面から忠告に向ったんではとても受け付けまいと思ったんだ。
「—雷鳴は鳴る時にだけさまをつけ—とね、雷鳴を好きだという旋毛つむじ曲りも少いが、お前のように、四つん這いになって逃出すのも滅多にないよ、あの格好を新造衆しんぞしゅうに見せたかったな」
私は旋毛つむじ曲りのようだが『ツィゴイネルワイゼン』の曲目を避けた。