打擲ちょうちゃく)” の例文
と同時のように、ぴしりぴしりとお白州から、あば敬がさっそくお手のものの拷問を始めたらしく、打ち打擲ちょうちゃくの音が聞こえるのです。
今日、浜御殿の広場で、父に打擲ちょうちゃくされた上、勘当とまで、極端な叱りをうけた又十郎は、お駒の家で、自暴自棄じぼうじきな酒をあおっていた。
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
、女房の手より奪い取ろうものと、あるいは押し強く尋ねましたり、時には打擲ちょうちゃくいたしましたり、嚇したりいたしますのでございます
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この少年の傲慢ごうまん無礼を、打擲ちょうちゃくしてしまおうと決意した。そうと決意すれば、私もかなりに兇悪酷冷の男になり得るつもりであった。
乞食学生 (新字新仮名) / 太宰治(著)
叔母のかたをばんでいるうち、夜も大分だいぶけて来たので、源三がついうかりとして居睡いねむると、さあ恐ろしい煙管きせる打擲ちょうちゃくを受けさせられた。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ところが、数分の後に、角助は、源十の打擲ちょうちゃくの下に、急におとなしくなった。「六ゾロの源」はもう無我夢中である。狂気に近かった。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
食堂の主婦の姉の子だが、主婦なる女人が天下に稀なお天気屋で、朝は娘を甘やかし、夜は娘を打擲ちょうちゃくするめまぐるしい変転ぶり。
探偵の巻 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
家庭に於ては夫婦喧嘩をなし、一杯機嫌で打擲ちょうちゃくをなしてはばからず、しかしてその子弟を聖人たらしめよとは矛盾の甚しきものである。
教育の最大目的 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
家や田畑は、弟に取られるしな、食物もろくろく食わせらんし、なんぞ口答えすると、弟三人がよってたかって打擲ちょうちゃくするんじゃもの。
義民甚兵衛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
原田麗子はらだれいこ——湯本の恋人、湯本の恐ろしき打擲ちょうちゃくに甘んじ、寧ろそれを喜んでいるかに見える猟奇娘、二十三歳の大柄な豊満娘。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
太郎も倉子が酔たる時は折々機嫌を取損ね打擲ちょうちゃくせらるゝ事もありと云えば二人ににんはそろ/\零落の谷底に堕落し行く途中なりとぞ。
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
何か悪いこと、余計なこと、いたずらに類することをすると、たいへんな勢いで怒り、火箸や長煙管きせるで彼を打擲ちょうちゃくし、折檻せっかんした。
記憶 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
これは無論に又蔵の仕損じであった。かれ等はともかくも武士の子である。理非もたださずにみだりに人を打擲ちょうちゃくするとは何事だといきまいた。
半七捕物帳:11 朝顔屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わしにとってはそんな打ち打擲ちょうちゃくなんか、痛いどころかうれしいくらいだ……だって、そうでもしなけりゃ、わし自身やりきれんのだからな。
母はびしょ濡れになった着物をぬがすと、すごい剣幕で、裸の私を打擲ちょうちゃくした。私の幼い頃、大人からよく聞かされた歌に、こんなのがある。
生い立ちの記 (新字新仮名) / 小山清(著)
その上、おきみ! 貴様の見張りようが悪かったと言って、おきみをうち打擲ちょうちゃくなさるんです。いくらご主人でもあれじゃなんぼなんでも——
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
僕は眼でもって、マスミの頬を打擲ちょうちゃくした。眼でもって、微かに白い歯を覗かせた可愛いい薔薇色の唇を抓りあげた。それでも物足りなかった。
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
向うは二男のいきおいなれば喧嘩はまけとなったのみならず、弓の折にて打擲ちょうちゃくされ、額に残る此のきずも其の時打たれた疵でございます
「やがては、ゆるりと磔柱はりきにかって、休まるるからだじゃなど悪口あっこうし、あまつさえ手をあげて、打擲ちょうちゃくさえしたものでござる。」
さまよえる猶太人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼女はその種の多くの女らと同じく、日々一定量の愛撫あいぶを与え、また一定量の打擲ちょうちゃく罵詈ばげんとをなさねば納まらなかった。
それ故公も時に道阿弥の存在をのろい、しば/\彼を面罵めんばし、打擲ちょうちゃくし、寧ろ斬り捨てるにかずと決心して、白刃を擬したことも一再ではないらしい。
平人の身としてこれを殺しこれを打擲ちょうちゃくすべからざるはもちろん、指一本を賊の身に加うることをも許さず、ただ政府に告げて政府の裁判を待つのみ。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
工匠らの出現によってきもを消す皇子、喜び勇む姫、あるいは工匠らを血の流るるまで打擲ちょうちゃくして山に隠るる皇子などの姿は、決して涙なき滑稽でない。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
亭主ていしゅは上さんに公然と眼の前で、彼女を情婦にしていた。彼女は肺病だった。死んでしまった。フランソアーズは打擲ちょうちゃくや汚行のなかに育っていった。
彼を見棄てて行ったのは、狼狽のあまりか、それとも彼の悪口や打擲ちょうちゃくに意趣返しをするためか、私にはわからない。
そののち他の獣風聞うわさを聞けば、彼の黄金丸はそのゆうべいた人間ひと打擲ちょうちゃくされて、そがために前足えしといふに。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
一日例のごとくきこし召し過ぎ、例の打擲ちょうちゃくがうるさいからおりの戸を開けて六脚の豕を出してその跡に治まり返る。
女中や下男が義夫に同情して、義夫をかばうようにしますと、それがまた却って妻の怒りを買い、後には、大した理由もなく義夫を打擲ちょうちゃくするようになりました。
安死術 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
しかし子供の不従順に対しては厳格であった。「子供を打擲ちょうちゃくするのはいやなものだ、あと一日気持が悪い」
レーリー卿(Lord Rayleigh) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
阪井が柳を打擲ちょうちゃくして負傷させたということはすぐ全校にひびきわたった。上級の同情はいつに柳に集まった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
ちょうど利三郎は、尾州の用材を牛につけて、清水谷下しみずだにしたというところにかかった時であったという。三人の雲助がそこへ現われて、竹のつえで利三郎を打擲ちょうちゃくした。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
打擲ちょうちゃくという字は折檻せっかんとか虐待ぎゃくたいとかいう字と並べて見ると、いまわしい残酷な響を持っている。嫂は今の女だから兄の行為を全くこの意味に解しているかも知れない。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私がどんなに道理を申し上げても足りなくお思いになるのでしたなら、私を打擲ちょうちゃくでも何でもしてください。あの女王様の心は私よりも高い身分の方にあったのです。
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
この日ごろの打擲ちょうちゃくに引きむしられた頭髪がちらばって、部屋じゅうに燃える眼に見えぬ執炎業火しゅうえんごうか
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そやけど、美津さん、うらみにばかり、思いやすな。何百人か人目の前で、打擲ちょうちゃくされて、じっこらえていやはったも、辛抱しとげて、貴女あんたと一所に、添遂げたいばかりなんえ。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
良人を凌圧りょうあつしたり、妻を虐待したり、我子を打擲ちょうちゃくしたりする男女は、如何に民主主義を口にしても、その実質は各人に固有する「平等の権利」を解しない専制主義者、官僚主義者
婦人も参政権を要求す (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
浮きつ沈みつしていたくだんの若ざむらい二人は、それでも命からがら起き上り、向うの岸へのたりついて、い上り、水びたしになり、打擲ちょうちゃくに痛むからだで、びっこを引き引き向うの道へ
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ここは時代中の世話場にて、「布引滝」九郎助住家のおもかげあり。入江長兵衛が光俊を討たんため贋狐憑にせきつねつきとなりて入込み、光俊が武士をやめむといひて菖蒲の方の打擲ちょうちゃくに逢ふなど在来ありきたりの筋なり。
しゅろはこの打擲ちょうちゃくにたえかねて、葉をわなわなとふるわせるのでありました。おお、もしも彼女に声があったなら、どんなに物すごい忿怒ふんぬの叫びを、園長は耳にしたことでありましょうか。
打ち打擲ちょうちゃくはまだしもの事、ある時などは、白魚しらおの様な細指を引きさいて、赤い血が流れて痛いのでかないが泣くのを見て、カラカラと笑っていると云った様な実に狂気きちがいじみた冷酷の処置であった。
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
ミチも、そんな世界へ行こうとは考えて居なかったが、勇の、若い猛獣の不機嫌さを思わせる、兇暴なすさみ方はえられず、彼の打擲ちょうちゃくに唇を噛みしめながらも、金を得る方途ほうとを考え続けた。
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
道徳上何の悪意もなき者を打擲ちょうちゃくするに至りてはその害、悪事を看過するよりもなほ甚だしからんか。これら不理の懲戒を受けたる者、残忍酷薄の人たらずんば必ず猜疑褊狭さいぎへんきょうの人たるべきなり。
病牀譫語 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
と、怒りの形相物凄く、金剛杖をおっ取って、散々に打擲ちょうちゃくする。関守の富樫は、義経主従と看破してはいるものの弁慶の誠忠に密かに涙し、疑い晴れた、いざお通りめされと一同を通してやる。
お前を打擲ちょうちゃくすると
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
御法度にも拘らず重ね/\不届きな次第といふので下知して暇乞の連中を打擲ちょうちゃくさせたが、打たれると却つて悦ぶ始末で手がつけられない。
島原一揆異聞 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
お静への打擲ちょうちゃく折檻せっかんはむろんのことににらんだとおりで、今までも近所かいわいに評判なほどでしたが、ことに浪人者の不審なる入水じゅすい以後は
怒った時には、縄切なわきれを振りまわしてエルサレムの宮の商人たちを打擲ちょうちゃくしたほどの人である。決して、色白の、やさ男ではない。
花吹雪 (新字新仮名) / 太宰治(著)
余の話の声など立てて妨ぐればこそ、感涙を流して謹み聞けるものを打擲ちょうちゃくするは、と人々も苦りきって、座もしらけて其儘そのままになってしまった。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
張飛を礼讃らいさんしていたが、そのうちに、何か気に喰わないことがあったのか、張飛は、咎もないひとりの士卒を、さんざんに打擲ちょうちゃくしたあげく
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それをこのレスリッヒがむやみに憎んで、はしの上げおろしにもがみがみ叱りつける、いや、それどころか、むごたらしく打ち打擲ちょうちゃくするんです。