ただ)” の例文
恒産なくして恒心あるは、ただ士のみくするをす。民のごときはすなわち恒産なくんば因って恒心なし。いやしくも恒心なくんば、放辟ほうへき邪侈じゃしさざるところなし。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
子顔渕に謂いて曰く、之を用うるときは則ち行い、之をつるときは則ち蔵す。ただ我と爾と是れあるかなと。子路曰く、子三軍をらば、即ち誰と与にせんかと。
論語物語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
有若曰く、あにただに民のみならんや。麒麟きりんの走獣に於ける、鳳凰ほうおうの飛鳥に於ける、泰山たいざん丘垤きゅうてつに於ける、河海かかい行潦こうろうに於けるは類なり。聖人の民に於けるもまた類なり。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
必ずやこれを身にもとづけ、諸を政教にあらわし、以てものを成す可き者は、ただ聖人の学、聖道を去ってしこうしてしたがわず、而してただにこれ帰す。甚しいかな惑えるや、と。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
兄弟よ我なんじらに示す我がかつて爾らに伝えし所の福音は人より出づるにあらず、けだママわれ之を人より受けずまた教えられず、ただイエス、キリストの黙示もくしによりてうけたればなり
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
ただ経史子集は世の重要視する所であるから、『経籍訪古志』は一の徐承祖じょしょうそを得て公刊せられ、「古武鑑」や古江戸図は、わたくしどもの如き微力な好事家こうずかたまたま一顧するに過ぎないから
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
否孟子は、恒産なくんば因って恒心なしということを言い出す前に、「民のごときはすなわち」と付け加えており、なおその前に「恒産なくして恒心ある者はただ士のみくするをす」
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
いて道衍の為に解さば、ただれ道衍が天にくるの気と、自らたのむの材と、莾々もうもう蕩々とうとう糾々きゅうきゅう昂々こうこうとして、屈すからず、たわむ可からず、しょうす可からず、おさう可からざる者
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
我は我の神を拝しただこれにのみつかうべしと、基督の決心ここにおいて定まり、生涯の行路彼に指示ししされたれば、悪魔は彼を説服ときふくするに由なく、ついに彼を去りたれば天使来りて彼につかえたり。
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
かくの如くなる可からざる也、と云い、晦庵かいあんの言をなんしては、朱子の寱語げいご、と云い、ただ私意をたくましくして以て仏をそしる、と云い、朱子もまた怪なり、と云い、晦庵かくの如くに心を用いば
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
今や民の産を制して、仰いでは以て父母に事うまつるに足らず、俯しては以て妻子を畜うに足らず、楽歳には終身苦しみ、凶年には死亡を免れず、これただ死を救うてらざらんを恐る。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)