徽章きしょう)” の例文
本妙寺にまつられてある、加藤清正公の神苑で、凱旋祝賀会があったときにも、私は白色銅葉章ようしょうと従軍徽章きしょうを胸にけた父と一緒に行った。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
二人の眼のまえには、法官服や教師の服や御料地事務官の服をつけた人々が、思い思いの徽章きしょうを胸に、絶えずちらちらしていた。
また大田南岳おおたなんがく山高帽やまたかぼうに木綿の五ツ紋、小倉こくらはかまをはきて、胸に赤十字社の徽章きしょうをさげたる。この二人は最上の出来栄できばえなりけり。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
これこそ柿油党すーゆーたん(自由と同音、柿渋かきしぶは防水のため雨傘に引く、前の黄傘格に対す)の徽章きしょう翰林かんりんを抑えつけたんだと思っていた。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
初め張角が、常に、結髪を黄色いきれでつつんでいたので、そのふうが全軍にひろまって、いつか党員の徽章きしょうとなったものである。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこへとおぐらいの小供こどもけて来て犬をしかり付けた。小供は徽章きしょうの着いた黒い帽子をかぶったまま先生の前へまわって礼をした。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と、この一廓ひとくるわの、徽章きしょうともいっつべく、峰のかざしにも似て、あたかも紅玉をちりばめて陽炎かげろうはくを置いたさまに真紅に咲静まったのは、一株の桃であった。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
相手は学生帽をかぶっていたが、徽章きしょうを白い紙でいて隠していた。これもやはり自分と同じ苦学生でなければならない。
立衿たてえりに桜の徽章きしょうのある学習院大学の制服を着たよく似た顔が、四十五六の父親らしいひととふたりで、ケースをのぞきながらこっちへやってくる。
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
僕は、頭蓋骨、つまり髑髏は誰でも知っているとおり海賊の徽章きしょうだと答える。髑髏の旗は、海賊が仕事をするときにはいつでも、かかげるものなのだ。
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
老人の年はわからない、痩せたひょろ長い躯に、両前ボタンの古ぼけた制服を着、かぶっている帽子にはびて黒ずんだモールと、徽章きしょうが付いていた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その袖には赤十字の徽章きしょうをつけていた。宿に帰って主人から借りた修善寺案内記を読み、午後には東京へ送る書信二通をかいた。二時ごろ退屈して入浴。
秋の修善寺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
まだ新しい制服を着て、学校の徽章きしょうの着いた夏帽子をかぶった下級の学生が連立って帰って行くのにも逢う。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ぼうしをかむって町へいくと、町の子どもが徽章きしょうを見て、松吉、杉作がいなかからきたことを、さとるにちがいありません。それが、ふたりはいやだったのです。
いぼ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
そして、こんなばあいに、これらのひとたちが、かれ徽章きしょう注意ちゅういするとかんがえるこそ、まちがっていたのでありましょう。かれが、かおあかくしてたおれまいとしたとき
村へ帰った傷兵 (新字新仮名) / 小川未明(著)
金モールの徽章きしょうのついた船員帽、黒い縁とりの詰襟服、普通の商船となれば、事務長といった風体の男である。だがこの男も、どっかで見かけたような気がする。
黒蜥蜴 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そうして、その中学の制帽の徽章きしょうにも、制服のボタンにも、桜の花が図案化せられて咲いていました。
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
したがって改造や普選の運動家はこれを徽章きしょうに旗標に用いてしかるべき鶏の足も、所変わればしな変わるで、西洋では至って不祥な悪魔の表識とされ居るので面黒い。
自分の空想は一つ峠会というものを組織し、山岳会の向うを張り、夏季休暇には徽章きしょうか何かをつけて珍しい峠を越え、その報告をしゃれた文章で発表させることである。
峠に関する二、三の考察 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
潜水服のところに、妙な縞模様がついていると思ったが、これは共産党大佐の徽章きしょうであったか。
太平洋魔城 (新字新仮名) / 海野十三(著)
王が帰ると間もなく、巡査の徽章きしょうのようなものをけた男が訪ねて来た。アピア市の巡査ではない。所謂いわゆる叛乱者側(マターファ側の者をアピア政府の官吏は、そう呼ぶ。)
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
りっぱな中学生の服装で雑嚢ざつのうを肩にかけ徽章きしょうのついた帽子を輝かして行くのを見たときである。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
又訊くと、『こら、人を馬鹿にするな! お前達は学院の徽章きしょうをつけているじゃないか?』
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
毎日馬車に乗って、参謀の徽章きしょうを胸にかけて通った。不思議に子供も名前を知っていて、権兵衛ごんべえが来た来たと、口々にしめしあわせながら、先を争って帽子をとって頭をさげた。
大人の眼と子供の眼 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
夜のことだからそこいらは気味の悪いほど暗いのだけれども、帽子だけははっきりとしていて、徽章きしょうまでちゃんと見えていました。それだのに帽子はどうしてもつかまりません。
僕の帽子のお話 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ほんとうはもうもっていてはいけないはずの消防隊の徽章きしょうをもっていくのです。それを村の外に出るとつけるのです。村のなかではそれが人目にふれることを恐れているんです。
(新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
会社の徽章きしょうの附いた帽をかぶって、辻々つじつじに立っていて、手紙を市内へ届けることでも、途中で買って邪魔になるものを自宅へ持って帰らせる事でも、何でも受け合うのが伝便である。
独身 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
と見れば軍艦羅紗ラシャの洋服を着て、金鍍金きんめっき徽章きしょうを附けた大黒帽子を仰向けざまにかぶった、年の頃十四歳ばかりの、栗虫のようにふとった少年で、同遊つれと見える同じ服装でたちの少年を顧みて
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
巴里北停車場では直ぐ私の制服、徽章きしょうを見付けてイボギンヌが駈け寄りました。
母と娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
まっ黒な羅紗ラシャ地の詰襟服を着こんでいる木山船長は、三太を見ると、金モールの徽章きしょうがついている制帽を脱いで、微笑を浮べた。色の黒い船長の顔も、帽子に隠されていた額だけは白い。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
しかるに田舎の紳士どもはその勲章めいた徽章きしょうがほしいわけであるか、あるいは県官らの勧めに余儀なくせられたるわけであるか、今日のところではとにかく非常に盛大なものとなつて
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
徽章きしょうのついた制帽をテーブルの上へほうり出すと、安楽椅子に腰をおろした。
すみれ——おや、あたしたちはみんなアカデミイの徽章きしょうをつけてるのね。
胸に真新まあたらしい在郷軍人徽章きしょうをつるして、澄ましかえって歩いて来る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「どうして分かるんです? あの徽章きしょうでですか?」
三つの挿話 (新字旧仮名) / 神西清(著)
軍帽の金モール徽章きしょうが、黄いろく光っている。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
銀行会社の小使こづかいなぞ、これらの者殆ど学生と混同して一々その帽子またはボタンの徽章きしょうにでも注意せざれば、何が何やら区別しがたき有様なり。
洋服論 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
老人の年はわからない、痩せたひょろ長いからだに、両前ボタンの古ぼけた制服を着、かぶっている帽子にはびて黒ずんだモールと、徽章きしょうが付いていた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
きっと彼は、この気味のわるい徽章きしょうで自分の金を取りもどすことに、詩的調和といったようなものを感じたんだぜ
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
かたぶとりな肉塊ししむら濃緑こみどり緞子どんす戦袍せんぽうでくるみ、かしらには黒紗くろしゃ卍頭巾まんじずきん、それには金色の徽章きしょうがピカと光っている。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「うう。」といった時ふっくりした鼻のさきがふらふらして、手で、胸にかけた何だか徽章きしょうをはじいたあとで
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
徽章きしょうの着いた制帽と、半洋袴はんズボンと、背中にしょった背嚢はいのうとが、その子の来た方角を彼に語るには充分であった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
振返ふりかえればむねひか徽章きしょうやら、勲章くんしょうやらをげたおとこが、ニヤリとばかり片眼かためをパチパチと、自分じぶんわらう。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
全体が真黒まっくろで、水に近いところだけ、真赤に塗ってある、まるで高い高い壁のような汽船の横腹、その前を、海軍将校のような金モールの徽章きしょうの帽子をかぶった船員が
新宝島 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
『万葉集』にもある足柄山あしがらやまのトブサなどと多分一つの語であり、種俵たねだわらの前後に取りつける桟俵さんだわらも同様に、本来は物のとうとさを標示する一種の徽章きしょうであったかと思われる。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
大江山警部は給仕を呼んで、不良少女調簿しらべぼをもってこさせると丹念にブラック・リストの隅から隅まで探しまわったが、かおるの名前も、その怪しげな徽章きしょうも見つからなかった。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
苦力頭は軍隊使用の苦力らの取締役のようなもので、胸には徽章きしょうをつけ、手には紫のふさの付いているむちを持っている。丁のような人の眼にも、それがうらやましく見えたのであろう。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
小紋縮緬こもんちりめんの胸に「愛国婦人会」の徽章きしょうを、それはまだしもとして「清州芙江間道路開通記念」などいう二銭銅貨と間違えられそうなメダルをまでもぶらさげて来るのが普通であった。
これでは、ぼうしの徽章きしょうを見なくても、山家やまがから出てきたことがわかるでしょう。
いぼ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
ところが髯の下には——そしてこれがほんとうの発見だったが——さまざまな大きさと色をした徽章きしょうが上着のえりについていた。見られるかぎり、すべての人々がこの徽章をつけていた。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)