尋常よのつね)” の例文
こは深き憂にあたれるが爲めなるべけれど、その憂は貧か戀か、そも/\別に尋常よのつねならざる祕密あるか。これを知るもの絶て無しとぞ。
その両の手のふるへざまも、尋常よのつねの事ではござるまい。おう、伴天連のからびた頬の上には、とめどなく涙が溢れ流れるぞよ。
奉教人の死 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
まず材をよく磨きてのち、鉛丹たん膠水にかわ、または尋常よのつね荏油えのゆ仮漆かしつあわせたる、黄赤にしてたいまい色をなすところの元料もとを塗る。
元禄十三年 (新字新仮名) / 林不忘(著)
すでに日も経ているらしいが、その装束も尋常よのつね女性にょしょうとは思われないし、なお、生けるままな容貌かんばせ白玕はっかんのように美しかった。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この時、今十五分も一緒に話し合ったならば、どうなったであろうか。女の表情の眼は輝き、言葉はなまめき、態度がいかにも尋常よのつねでなかった。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
尋常よのつねの犬なりせば、その場に腰をもぬかすべきに。月丸は原来心たけき犬なれば、そのまま虎にくってかかり、おめき叫んで暫時しばしがほどは、力の限りたたかひしが。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
知らぬ知らぬで、事は済む、問われる方が焦れたくらい、言数ことばかずを尽すだけ、問う方の苛立いらだち加減は尋常よのつねではない!
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さらぬも尋常よのつねの動植金石、さては風俗などをさへ珍しげにしるしゝを、心ある人はいかにか見けむ。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
さて樹叢こむらに身をひそめて、そが来むをりをこそ俟てりしか。こたびは彼の女人、紅裳のひとりを偕ひ来と見ゆるに、そのすがた尋常よのつねならず艶だちたり。やうやう近うなりぬ。
『聊斎志異』より (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
昔を守ることばかりはいかついが、新しいことの考えは唯、尋常よのつねの婆の如く、愚かしかった。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
前庭の洒掃さいさう浄らかにして一草一石を止めず。雨戸を固くとざしたる本堂の扁額には霊鷲山りやうじゆさん舎利蔵寺しやりざうじと大師様の達筆にて草書したり。方丈の方へ廻り行くに泉石の按配、尋常よのつねならず。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「旅の御僧、もはやそなたへの疑いは晴れ申したが、さるにても、斯様かようは怪物を見事に御退治めされたとは、尋常よのつねの出家ではござるまい、お差しつかえなくば、俗名ぞくみょうをうけたまわりたい」
轆轤首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
あの追放人おひはらはれ無頼漢ならずものんでゐるマンチュアに使つかひおくり、さるをとこふくめて尋常よのつねならぬ飮物のみもの彼奴あいつめにませませう、すればやがてチッバルトが冥途めいど道伴みちづれ。さうなれば其方そなたこゝろなぐさまう。
天に二つの日を掛けたるがごとし、ならべるつのするどにして、冬枯れの森のこずえに異ならず、くろがねの牙上下にちごふて、紅の舌ほのおを吐くかと怪しまる、もし尋常よのつねの人これを見ば、目もくれ魂消えて
につと笑ふて、右手に持ち、こちへこちへとお園を呼びて、尋常よのつねならぬ涙声
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
しかしさような宝を手頼たよりにいたすは尋常よのつね
その聲音こわね尋常よのつねならず、譬へば泉下の人の假に形を現して物言ふが如くなりき。我即興詩はみだりに混沌のあな穿うがちて、少女に宇宙の美を教へき。
酒宴の席に、劉泌りゅうひつはひとりの美少年をつれていた。玄徳がふと見ると、人品尋常よのつねでなく、才華玉の如きものがある。で、劉泌にそっと訊ねてみた。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
加之しかのみならず牛に養はれて、牛の乳にはぐくまれしかば、また牛の力量をも受得うけえて、けだし尋常よのつねの犬の猛きにあらず。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
さらぬも尋常よのつね動植金石どうしょくきんせき、さては風俗などをさえ珍しげにしるししを、心ある人はいかにか見けん。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
渠の形躯かたちは貴公子のごとく華車きゃしゃに、態度は森厳しんげんにして、そのうちおのずから活溌かっぱつの気を含めり。いやしげに日にくろみたるおもて熟視よくみれば、清※明眉せいろめいび相貌そうぼうひいでて尋常よのつねならず。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
昔を守ることばかりはいかついが、新しいことの考へは唯、尋常よのつねの姥の如く愚かしかつた。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
わざわざ御自身でおいでくだされて、あのうつけ者を婿養子むこようしにとのお言葉さえあるに、恐れ入ったただいまの御仕儀ごしぎ。これが尋常よのつねの兄じゃ弟じゃならば、当方は蔵前取りで貴殿は地方じがただ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
家は丁度ちやうど尾谷川に臨んだ一帯の平地にあつて、かしまばらな並樹なみきがぐるりと其の周囲を囲んで居る奥に、一むね母屋おもや、土蔵、物置と、普請ふしん尋常よのつねよりは堅く出来て居て、村に何か事のある時には
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
カピ長 しずむとつゆりるは尋常よのつねぢゃが、をひ日沒ひのいりには如瀧雨どしゃぶりぢゃ。
わが崇拜の念はいかなりしぞ。さるを今はこの尋常よのつねなる容色にすらけおされをはんぬ。あはれ、薄倖なるベルナルドオは身病み色衰ふるに及びて君を棄てしか。
黄金丸は柴門しばのとに立寄りて、丁々ほとほとおとなへば。中より「ぞ」ト声して、朱目あかめ自ら立出づるに。見れば耳長く毛は真白ましろに、まなこくれないに光ありて、一目みるから尋常よのつねの兎とも覚えぬに。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
しかし彼の場合は、尋常よのつねの人の年齢や肉体とくらべては考え得られないものがある。それはそうした皮膚や筋肉とはまったく別箇のものみたいにある絶倫ぜつりんな精力だった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
古風いにしえぶりを存ぜる弔燭台つりしょくだい黄蝋おうろうの火遠く光の波をみなぎらせ、数知らぬ勲章、肩じるし、女服の飾などを射て、祖先よよの油画あぶらえの肖像の間に挾まれたる大鏡に照反てりかえされたる、いへば尋常よのつねなり。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
いや別に何が起ったというわけではないが、都を立つ時、特に魏王からいましめのお使を派せられ、関羽は智勇の将、尋常よのつねの敵と思うてあなどるなと、くれぐれ念を押されたことであった。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
當時の新聞に載せられて、世の人にもてはやされしかど、今日になりておもへば、をさなき思想、身の程知らぬ放言、さらぬも尋常よのつねの動植金石、さては風俗などをさへ珍しげにしるしゝを
舞姫 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
古風いにしえぶりを存ぜるつり燭台しょくだい黄蝋おうろうの火遠く光の波をみなぎらせ、数知らぬ勲章、肩じるし、女服の飾りなどを射て、祖先よよの曲画の肖像の間にはさまれたる大鏡に照りかえされたる、いえば尋常よのつねなり。
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「玄徳は尋常よのつねの人物ではない。軽々しく見ては間違いでござる」
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「これは一体、どこを通ってきた軍勢か。尋常よのつねのことではない」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(これはよい人物らしい。尋常よのつねの武骨ではない)
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)