封蝋ふうろう)” の例文
それから、器用な手つきで、封蝋ふうろうを火のうえで軟かくすると、コルクの栓のうえを封じた。それで作業は終ったのであった。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
どうもわしも、めっきり弱くなったよ。くなった大旦那おおだんなさまは、みんなの病気を、いつも封蝋ふうろうで療治なすったものだ。
桜の園 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
そして全体をさわれないくらい熱くしておいて封蝋ふうろうり、その上をさらにすっぽり封蝋でつつんでしまうのである。
実験室の記憶 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
陳者のぶればかねてより御通達の、潮流研究用とおぼしき、赤封蝋ふうろう附きの麦酒ビール瓶、拾得次第届告とどけつげ仕る様、島民一般に申渡置候処もうしわたしおきそうろうところ、此程、本島南岸に、別小包の如き
瓶詰地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
赤い封蝋ふうろうと青い封蝋をちゃんと見分けられるしね。僕が空樽あきだるを売ると、そいつは僕の収入みいりになるんだぜ。兎の皮だってそうだよ。おかねはおかあさんに預けとくんだ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
石油なども口を封蝋ふうろうかんしてある大きな罎入かめいり一缶ひとかんずつもとめねばならなかった。
亡び行く江戸趣味 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
己の精神は、アルコオルや揮発油きはつゆよりももっと蒸発力じょうはつりょくの強い気体きたいのようなもので、いくら壜詰びんづめにされても、キルクや封蝋ふうろうで密閉されても、わずかな隙間からどんどん上昇して行くのだった。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
赤い封蝋ふうろう細工のほおの木の芽が、風にかれてピッカリピッカリと光り、林の中の雪には藍色あいいろの木のかげがいちめんあみになって落ちて日光のあたる所には銀の百合ゆりが咲いたように見えました。
雪渡り (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
手紙に用いる封蝋ふうろうとかあるいは衣服の繊維など手当たり次第に研究し、しかもある場合には立派に鑑別ができるので、俊夫君は有頂天になって喜び、それこそ寝食を忘れて実験室にとじこもり
紫外線 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
これには偽指紋を壁にして、無実の者に嫌疑をかけることが描かれているが、その方法は、ある人物の拇指紋ぼしもん封蝋ふうろうの上に残っていたのを利用して、その封蝋に別の蝋をおしつけて型をとり
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
予審判事の書記が寄れる卓子ていぶるの足の下に転がりて酒瓶さけびんの栓のりし事をも記臆し、そのせんはコロップにて其一端に青き封蝋ふうろうそんしたる事すらも忘れず、此後こののち千年生延いきのびるとも是等の事を忘る可くもあら
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
髭先ひげさきのはねあがりたる当世才子、高慢の鼻をつまみ眼鏡めがねゆゝしく、父母干渉の弊害をときまくりて御異見の口に封蝋ふうろう付玉つけたまいしを一日粗造のブランディに腸加答児カタル起して閉口頓首とんしゅの折柄、昔風の思い付
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
わたしのいない間に、母は新しい隣人りんじんから、灰色の紙にしたためた手紙を受取っていた。しかもそれをふうじた黒茶色の封蝋ふうろうときたら、郵便局の通知状か安葡萄酒やすぶどうしゅせんにしか使わないような代物しろものだった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
「なにしろ、お見せしようにも、こう封蝋ふうろうがしてありますんでね」
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)