取紛とりまぎ)” の例文
「へエ/\、早速此方こちらから、お屆けする筈でしたが、取紛とりまぎれてこの始末でございます。もう、あの、お聽きでございましたか、親分さん」
呑居のみゐけるに老女は膳を片寄ながらはたと手をうち私しは隣村迄今宵の中に是非行ねば成ぬ用有しを事に取紛とりまぎれて打忘れたり折角の御客に留守を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
文「私も取紛とりまぎれてお近付きになりませんが、私は浪島文治と云う浪人でございます、不思議な御縁で今晩お目に懸りました、どうか幾久しゅう」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
始終望んでいましたこの山へ、あとを尋ねてのぼる事が、物に取紛とりまぎれているうちに、申訳もうしわけもない飛んだ身勝手な。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蛙も、元氣能く聲を揃へていてゐる、面白いに取紛とりまぎれて、自分は夢中で螢を追駈廻してゐた。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
恥かしいとは思いましたが、ただ恥かしいでは隠しきれないバツがあって、そこは賢い女ですから、取紛とりまぎらすように心を立て直し、言葉を改めて駒井に向って言いました。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
先月は都合が悪くて送金しなかったから、せめて此内十円だけは送ろうと、紙入の奥に別に紙に包んで入れて置いたのが、お糸さんの事や何ややに取紛とりまぎれてまだ其儘になっている。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
大佐たいさは、今朝けささだまれる職務しよくむまゐるが、昨夜さくや取紛とりまぎれてかたらず、今朝こんてう御睡眠中ごすいみんちうなれば、この水兵すいへいもつ申上もうしあげるが、この住家すみかの十ちやう以内いないなれば、何處いづくかるゝも御自由ごじいうなれど、その以外いぐわい
相模屋の店中も、やうやく平靜を取戻して、型通りの檢屍を濟ませた上、親類や近所の衆が集まつて、とむらひの仕度に、暫くは取紛とりまぎれて居ります。
っかあまことに御無沙汰、一寸来なくちゃアならんのだけれども、駿府の方から親戚の者が出て来て居るもんだにってな何ややと取紛とりまぎれて、何うか僕も親族の者が
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
其時はしんに其積りであながち気休めではなかったのだが、彼此かれこれ取紛とりまぎれて不覚つい其儘になっている一方では、五円の金は半襟二掛より効能ききめがあって、それ以来お糸さんが非常に優待して呉れるが嬉しい。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
が静かになると人の心も静かになります。静かになるに従って昼のうちは取紛とりまぎれていたことまでが、はっきりと思い返され、寝られぬ時はかんこうじて、思わでものことまでが頭の中に浮んで来ます。
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「いや、取紛とりまぎれて失念しつねんをしようとした。ほんの寸志すんしだよ。」
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
今更いまさら申には御座なく候へども貧窮ひんきうの餘り無心申せしよりかくの仕合せと申に付大岡殿コリヤ三郎兵衞彼百兩は彌々いよ/\返濟へんさいなせしくれの事に取紛とりまぎれ萬一忘却致したるにはあらずやとくかんがへ見よいつはつゝむに於ては屹度きつと糺問きうもん致すぞ其方そのはう鰻登うなぎのぼりに金を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
相模屋の店中も、ようやく平静を取戻して、型通りの検屍けんしを済ませた上、親類や近所の衆が集まって、とむらいの仕度に、しばらくは取紛とりまぎれております。
はい/\悲しいのに取紛とりまぎれ、御挨拶も申しません、これは家来とは申しながら、私共わたくしどもの妹を女房にして居りますから、家来と申しても弟と同じ事、あとには七歳なゝつになる子もありまして
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「騷ぎに取紛とりまぎれて落したものでございませう。不斷その六疊に置いてある品ですが——」
貴方様あなたさまにも何時いつもお変りなく、一寸ちょっと伺いたく思いやすが、何分にもと訳あって取紛とりまぎれまして御無沙汰致しましたが、段々承れば宿屋店やどやみせをお出しなすったそうで、世界も変れば変るもので