博労ばくろう)” の例文
旧字:博勞
秋雨あきさめいて箱根はこねの旧道をくだる。おいたいらの茶店に休むと、神崎与五郎かんざきよごろう博労ばくろう丑五郎うしごろうわび証文をかいた故蹟という立て札がみえる。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
多くは博労ばくろうたちだった。この四、五日立っていた馬市の総勘定も、きのうで片づいたとかで、ここの旅籠はたごもきょうから閑散ひまになるらしい。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まちへどんどんうしおくられるので、まちへきている博労ばくろうが、いい手当てあたりしだいにっているというはなしいたのであります。
百姓の夢 (新字新仮名) / 小川未明(著)
街道には、毛付けづけ(木曾福島に立つ馬市)から帰って来る百姓、木曾駒きそごまをひき連れた博労ばくろうなぞがかさ合羽かっぱで、本陣の門前を通り過ぎつつある。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
昔ある博労ばくろうの女房、邪見じゃけんで馬をし殺してその罰で馬と化し、終始雨ばかり待っているという話は、大よそ他の地方も同じである(『相州内郷村話』)。
ところが、この博労ばくろう町の金米糖こんぺいとう屋の娘は余程馬鹿な娘で、相手もあろうにお前のものになってしまった。
勧善懲悪 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「ああこの姿でござるかの。恥を云わねば理が通らぬ、実は野尻の博労ばくろう相手に勝つ気でやった一文賭博とばくにどっこいこっちがまんまと負けてまずはこの通りと云う有様」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
栗毛の、片眼で老いためすの馬が、ある晩遅く、若い頃博労ばくろうをやったことのある祖父と、父と二人して、っぱられてきた。そして長屋の背後に、小さい掘立ほったて小屋が作られて、馬は其処そこに入れられた。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
ほた三束、蝋燭ろうそく二十梃、わき本陣様より博労ばくろうごん衛門えもんに下さる」
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
のちに浦和や川越かわごえあたりでパッと立った評判を聞くと、あらくれた博労ばくろうたちには、かえってそれが鬼気に迫って、実際凄かったものとみえる。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その報告によると、けさから方々の博労ばくろうを問い合わせてみたが、どこへも馬を売りに来た者は無いらしいと云うのである。
半七捕物帳:58 菊人形の昔 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
まちきました。そして、百しょうは、博労ばくろうにあって、自分じぶんうしりました。ほんとうに、かれおもったよりは、もっといいれたのであります。
百姓の夢 (新字新仮名) / 小川未明(著)
武蔵に接した相模さがみの山村においてもこの水恋鳥を「博労ばくろうのかか」といっている。昔この鳥は邪見じゃけんな女で、夫の留守に水もくれなかったために馬が渇して死んでしまった。
木曾は馬の産地で、馬を飼わない百姓はなかったくらいですから、福島にいちの立った時は近在のものが木曾駒きそごまを持ち寄ります。それを買いに諸国から博労ばくろうが入りこんできます。町もにぎわいの時です。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ころ、里は暗澹あんたんとしていたが、なんのことはない、例年のごとく牧の馬や牛を引いた博労ばくろうが、ぞくぞく伯耆ほうき平野をぎりはじめてもいる。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひとり、この百しょうだけは、まだ、まごまごしていました。そして、最後さいごに、もう一人ひとり博労ばくろうっていました。
百姓の夢 (新字新仮名) / 小川未明(著)
話の様子では、城下の馬市へ来ている博労ばくろうと見えます。日本左衛門や金右衛門にはわからないが、何か仲間ことばで、馬相場の話をしている。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
博労ばくろうが集まって、博労茶屋や博労宿が無秩序にえだしたので、近頃「ばくろちょう」と呼ばれている辻の辺りから——馬の背が無数に並んでいる。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
青梅おうめ博労ばくろうさんも話していた。昨日だったか、甲州から来た飛脚屋も、その通り魔に殺されかかったという話だったよ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さっき市の雑沓のなかで、博労ばくろうにどなられたのは、信長だった。従者は柴田勝家しばたかついえである。もちろん微行びこうで、その偽装ぎそうにも細心な気をくばっている。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
羽村の留は、縁がわに立って、厚ぼったく取り巻いた諸国の博労ばくろうや、仲買や、旅人たちを見わたして
野槌の百 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふだんは田馬も買えない博労ばくろうまでが、にわかに大口をきいて歩くのも何か自信がなければやれない事だ。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「へい、あしたは、八王子に馬市が立ちますんで、甲州の博労ばくろうが、たくさん上って来ております」
野槌の百 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
石川与七郎数正は、何十頭かの小荷駄隊の一小隊の指揮官として働いているらしく、博労ばくろうのように馬臭くなって、人馬のあいだに何かどなっていたが、直ぐやって来て
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
博労ばくろうたちは、そこを崩れて、十二、三人ほど一群ひとむれになって、がやがやと藪を出て来たが
野槌の百 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
清盛はやがて、そこでよく見る博労ばくろうの家へゆき、馬を売って、酒を買い求めた。
秩父ちちぶや甲州境の山の影が、どっぷり町の西北を囲ってはいるが、ここにまとまっている宵のには、酒のにおいだの——博労ばくろうの声だの、機屋はたやのおさの響きだの、問屋場役人の呶鳴る声だの
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
洞窟どうくつを背景に、ひとつの賊殿ぞくでんともいえる山寨さんさいを築造し、そのかしらは姓をえん、名をじゅんといい、あだ名を錦毛虎きんもうことよばれているものだった。——もとは山東莱州らいしゅうで馬や羊の売り買いをしていた博労ばくろうなのだ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夕方にせまった市の雑沓ざっとうのなかで、博労ばくろうの気のあらい声がした。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)